レイ・ダリオ氏: 没落する国家ではメディア上の私刑が法の裁きよりも強力になる

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログで覇権国家が没落するときに何が起こるかを語っている。ダリオ氏によれば、その1つが誰かが法の裁きを受ける前にその人をメディア上で血祭りにあげるメディア上の私刑である。

国家没落前のメディアの姿

前回の記事では、ダリオ氏がブログ上で読者に大手メディアを信用できるかどうかを訪ね、その上で自分の意見も表明していた。彼は珍しくもメディアは信用できないとはっきり言っていた。

だが何故そんな問いかけをしたかと言えば、人々がメディアを信用しなくなるのは、ダリオ氏によれば国家の没落前に起こることだからである。歴史上、没落する国家の特徴の1つがそれなのである。

だがその話には続きがある。メディアは信用できなくなるだけではなく、偏向したメディアは利害が一致する人々と結託して対立する人々を引きずり降ろそうとする。

SNSが全盛となっている今、誰かがメディア上で袋たたきになっているのを見たことがあるだろう。ダリオ氏によれば、そうした動きは国家が没落してゆくにつれて歴史上何度も起こってきた出来事なのである。

ダリオ氏は大英帝国やオランダ海上帝国など、歴史上かつて栄えた国々の繁栄と没落を研究してきた。

そのダリオ氏から見て、メディアが人々と結託して誰かのリンチを始める光景は、国家が衰退する直前に見られるものだという。

メディア上のリンチ

そうした光景についてダリオ氏は次のように描写している。

メディアは自警団のように野蛮に振る舞い始める。人々はメディア上で袋たたきにされ、実質的に審判を受けて有罪判決を下される。そして彼らの人生は裁判官や陪審員もなしに破滅する。

誰もが見たことのある光景ではないか。そしてダリオ氏にとっては「裁判官や陪審員もなしに」という部分が重要なのである。法の支配と民主主義が大好きな西洋人のダリオ氏は、それが軽んじられるところに国家の衰退を見る。

ダリオ氏はこう続ける。

法の裁きよりも人々の意見による裁きの力が強くなるこの古典的な現象のことを今の言葉ではキャンセルカルチャーと呼ぶ。それは対象となった人や組織を法律とは無関係に引きずり下ろそうとする中傷キャンペーンである。

実際、そうした動きは法の支配を迂回し、人を裁くことにおいて法律よりも強くなろうとする。

そしてダリオ氏は、それは単に法の支配の外にある私刑だから悪いと言っているのではない。それがアメリカの衰退を意味しているから悪いのである。彼はこう続けている。

歴史上、こうした動向の高まりはステージ5(訳注:ダリオ氏の言葉で、戦争が発生し覇権国家の後退が起きる直前の段階)に典型的な問題である。

結論

読者はどう思っただろうか。別に法の支配や民主主義を神格化していない日本人は、多少違う意見を持つのかもしれない。西洋人の理屈では、戦争も原爆を落とすのも合法である。合法かどうかなど、どうでも良いではないか。

だがいずれにしても、確かにこうした現象は西洋諸国の衰退を象徴している。アメリカやヨーロッパの政治は誰の目から見ても混乱している。リベラル派が移民受け入れを推進して右派がそれを止め、リベラル派が脱炭素を推進して右派がそれを止め、リベラル派がウクライナ戦争を推進して右派がそれを止める。

彼らは何がやりたいのか。結果として起こったのは移民による犯罪の増加と脱炭素によるインフレとヨーロッパにおける戦争である。

筆者はこれらの出来事をばらばらに見るのではなく、1つの超長期トレンドだと考えている。自分で移民を受け入れて自分で破滅した西洋人の自殺願望は脱炭素やウクライナ戦争に変わってまだ続いている。この点については以下の記事に詳しく書いている。

そして投資の話に戻せば、このトレンドに賭ける1つの方法はユーロスイスフランの空売りである。西洋の自殺トレンドによってまず死にゆくのは、アメリカよりヨーロッパだろう。ユーロスイスフランはユーロ圏の破滅を織り込んで、引き続き沈んでいる。