新型コロナウィルス肺炎で暴落していた原油価格がトランプ氏の一声で一気に暴騰した。2日の相場では、始値21.22ドルから一時27.39ドルまで約30%もの上昇を見せる場面もあった。
原油価格
周知の通り、新型ウィルスで飛行機が飛ばなくなった影響により原油相場は暴落している。この状況を打開するためにサウジアラビアはOPEC諸国を代表して減産合意をまとめ、ロシアにも減産に合意するよう迫ったが、ロシアがこれを蹴ったことで原油価格は更に暴落していた。
価格を安定させるための減産合意が当分できないのではないかとの懸念が生まれたからである。
そうした状況下で米国時間4月2日、アメリカのトランプ大統領はTwitterに次のように書き込んだ。
たった今、友人のMBS(訳注:ムハンマド・ビン・サルマン王子)と話した。MBSはロシアのプーチン大統領と話した。彼らは1000万バレルかそれ以上の減産を行うとわたしは期待し、願っている。そうなれば原油と天然ガス業界にとって素晴らしいことになるだろう!
もしかすると1500万バレルになるかもしれない。そうなれば皆にとって良い(素晴らしい)ニュースだ!
原油市場はこのニュースで底値から急上昇した。
減産合意は本当に可能か
しかしトランプ大統領のツイートは良く読んでみれば微妙である。まず第一にこれは正式な合意ではない。それどころかトランプ氏は「期待し願っている」だけである。それを良く読んだ原油市場は一時の急騰を少し巻き戻した。
ただ、トランプ氏が産油国の話し合いの針を少し進めたことは確からしく、サウジアラビアは木曜に次のように表明している。
本日、われわれはOPEC+(訳注:OPECとロシアなど元々減産を議論していたグループ)とその他の国々に、原油市場の望ましいバランスを取り戻すための公平な合意に至るための緊急会合を開くよう呼びかける。
サウジアラビアはロシアが減産合意を蹴って以来、ロシアが増産するならサウジも増産するとしてチキンレースに陥っていたが、そもそも減産を持ちかけたのはサウジアラビアなのだからサウジは本当は減産して原油価格を持ち上げたいはずである。
問題はロシアの反応となる。ロシアは自分から蹴った話し合いの直後から今後の話し合いの可能性を排除しないと言い続けているが、話し合うからといって合意するとは限らない。安い原油価格でも利益が出せる体力があるのはサウジとロシアだが、ロシアは原油価格だけに依存しているわけではないため、ロシアとしては原油暴落で競合他国が音を上げるのを見届けてから減産して価格を上げても構わないのである。
死に体のシェール産業
この状況で一番立場が弱いのがアメリカである。アメリカのシェールオイルとは従来の採掘方法では掘り出せない場所にある原油を掘り出す技術のため、サウジやロシアよりも大幅にコストがかかるのである。20ドル台の原油価格では完全に赤字となってしまう。事実、最近1つ目のシェール企業が倒産した。
トランプ大統領にとって問題なのは、原油産業のあるテキサスがトランプ大統領の票田であるということである。ここでシェール産業を潰してしまうと11月の再選が危うくなる。
しかしトランプ氏に差し出せるものはあまりない。アメリカのシェール産業は反トラスト法から価格上昇のための減産を禁じられている。自分たちは減産しないがサウジとロシアは減産しろと言うのであれば、トランプ大統領はよほどの対価を差し出さなければならない。
プーチン大統領はこれを狙っていたのである。ロシアとしてはトランプ大統領が対価を差し出すならばそれも良し、このまま原油価格が低迷して競合他社が次々に破綻するならそれも良しということである。
この状況におけるロシアの立ち位置はかなり強いが、投資家も同じ立場に身を置くことができる。ロシアの産油最大手Rosneftを買えば良いのである。この銘柄はずっと推奨してきたが、徐々に上がっている。
ロシアでも他の産油企業はサウジの減産合意に耳を傾けていたのだが、最大手のRosneftが強硬姿勢を貫き、プーチン大統領がそれを採用したのである。Rosneftは長期のチキンレースになれば勝つのは自分だと知っているからである。
トランプ氏にとっては非常に難しい状況である。まな板の上の鯉をシェフが調理しようとしているとき、投資家は鯉に賭けてはならない。賭けるべきなのはシェフの方である。
シェフの方に賭けた投資家にとっては状況はどちらに転んでも良いと言える。トランプ氏が難しい交渉を纏めて原油価格が上昇すればそれも良し、長期低迷となってシェール産業が絶滅してから原油価格回復となってもそれもまた良いのである。ただ1つ言えるのは、原油は安い間に仕込んでおくべきだったということだろう。20ドルは買いだと何度も言ってきたのである。