さて、前回はブラックマンデーに至るまでの政治的・経済的背景を説明したので、今回は2015年の相場がブラックマンデー当時に似ているのかどうかについて検証したい。
金融緩和の出口という点では一致
先ず、一致している点は金融緩和のターニングポイントであるという点である。当時の米国はインフレ退治のために高止まりさせていた政策金利を、インフレが収束したため段階的に下げており、そのため株式市場が上昇基調にあったが、ブラックマンデーが起きた頃にはドル安が行き過ぎていたため、段階的な利上げに向かおうという時期であった。
一方で、現在の米国ではサブプライム・ローン危機で停滞した経済を支えるべく、量的緩和が行われていたが、失業率が完全雇用に近い水準に落ちてきたため、量的緩和を停止し、利上げに向かおうとしている。流動性の縮小はバブル崩壊の典型的な原因であるが、とりあえずこの点では現状とブラックマンデーの頃の市場は一致しているといえる。
為替市場の方向性は正反対
しかしながら、ドルの方向性は一致していない。当時はドル安で、今はドル高である。
ブラックマンデー当時の市場では、ドイツや日本がインフレを警戒し、米国からの利下げの要請がありながらも、国内の状況としては利上げを望んでおり、事実、ドイツはブラックマンデー直前に利上げを行った。しかし、2015年の状況では米国が量的緩和を終了する以前に日本が量的緩和を行い、ドル円は大いに上昇した。ユーロはその間も上昇していたが、2015年の1月にECB(欧州中央銀行)が量的緩和を決定、ドルの世界的な上昇基調が確定した。
この状況は、ドルの緩やかな上昇にドイツが同意できなかった1987年の状況の成功パターンであるとも言える。米国が金融緩和から撤退するのに応じて日本とドイツが金融緩和を行い、米国株とドルの両方を支えた。今回、両国に量的緩和をしきりに促した米国は、自国の出口戦略には他国の協力が必要だということを恐らく理解していたのだろう。日本と欧州が紙幣を刷っている間こそが、量的緩和バブルから逃げ出すチャンスなのである。
危機が忍び寄るユーロ圏
以上より、2015年の米国市場は金融緩和の出口戦略のために他国を説得することに成功した、ブラックマンデー回避型の成功シナリオであると言え、ファンダメンタルズに関して言えば、ブラックマンデーとは重なっていない。投資家は当時のようにドルの自由落下を懸念する状況にはなく、むしろドル安は単に輸出企業にプラスと受け取られ、株高要因となるだろう。現在の米国市場が抱える懸念とは、株高と債券高という矛盾した状況がいつか解消されなければならないということであり、これはブラックマンデー当時の状況とは異なる。
しかしながら、一方でブラックマンデーと現在のユーロ圏の状況は非常に似ている。あるいは、遅くとも日銀が量的緩和を終了する時期までには、当時の米国のように、ECBは通貨安か株安・債券安かの二者択一を迫られることになるだろう。米国債の利回りを下回るスペイン国債というのはどう考えても行き過ぎであり、そしてユーロの下落は止まらない。現在のユーロの下落が単に量的緩和の影響だけではなく、通貨危機の兆候があるということは以下の記事に書いた。
投資家は、米国の利上げを仮に乗り切ったとしても次は日銀の量的緩和停止を受け入れなければならない。日本経済は誤った消費増税のために米国ほど回復していないが、それでも永遠に量的緩和をするわけにはいかないのである。日銀の出口戦略は米国以上に難しいものとなるが、ユーロ圏の出口戦略は後に続く中銀がないという点でもっとも難しいのである。
上記の記事に書いたように、それでもドイツだけは金融危機を回避できる可能性がある。しかし、そのためにはドイツ当局が量的緩和の出口戦略の難しさを本当の意味で理解しなければならない。それはほとんど不可能に近いだろう。金融緩和バブルの危険性を正しく認識しているのは、世界のファンドマネージャーのなかでも一握りであり、政府や中央銀行が数億ドルもの報酬を払って彼らを雇うことは有り得ない。しかし結果として、当局にはその責務を果たせる人材は行かず、彼らは金融危機を回避することはできないのである。
The Institute for New Economic Thinkingなどでの活動を見れば、ジョージ・ソロス氏などは適切な規制が金融危機を回避する可能性を信じているようだが、彼は彼のような危機察知能力を当局が持ち得ない事実を見過ごしている。市場で取引が行われる限り、金融危機は何度でも起こる。問題は、そのタイミングなのである。