ギリシャなどが無茶な要求を始めたことで、ユーロ圏におけるドイツの負担は日々増しているように見えるが、それでも最終的に利益を得るのは経済が強いドイツである。
何度も書いてきたように、量的緩和とは中央銀行が国債などリスクの低い証券を買い占めることで、家計や保険会社などを国債市場から追い出し、社債や不動産、株式など、よりリスクの高い証券に資金を移させるポートフォリオ・リバランス政策である。
これは、量的緩和が行われている限りは、流動性が潤沢な債券市場から株式市場へと資金が溢れ出てくる構図となるが、中央銀行が債券市場から撤退するや否や、債券と株式が資金を求めて争い合う綱引きの様相となり、したがってこのバブルのツケは何処かの市場がいずれ払わなければならない。
米国における量的緩和の終了、そして利上げが上手く行きそうにないことについては上記の記事に書いた。日本が量的緩和を終了するときにはより厳しい状況に追い込まれるだろう。しかし、ドイツに関しては状況が少し違うかもしれない。この点について書いてみたい。
経済が強い国の量的緩和
上記の記事で書いた通り、ユーロ圏の量的緩和は、南欧諸国など国債に信用のない国にとっては通貨危機を引き起こすリスクの高い政策だが、では経済が強いドイツにとってはどうなのだろうか?
ドイツは量的緩和を必要としていない。ドイツのインフレ率の伸び悩みは、失業率の高い南欧諸国から労働者が雪崩れ込んだことによる労働市場の飽和、そして賃金低下が原因であり、企業にとってはプラス要因である。しかも、ドイツが単独通貨を持った場合に比べて非常に低く抑えられたユーロのお陰で、ドイツの輸出企業は国内需要が弱くとも充分に利益を上げられる。
外国人労働者の流入による賃金低下が国内消費者の購買力を低下させる恐れはあるが、こちらは減税などで対応が可能であり、量的緩和のような非常時の政策は全く必要ではないのである。
いずれにせよ金余りのドイツ
低インフレは確かにドイツ国民には厳しい状況を示唆しているが、ドイツ経済が強くあり続けるかぎり、それはどうとでもなるのである。ドイツは今年、財政収支の黒字化を達成した。量的緩和により、不動産や株式は恐らくバブルの水準へ向かってゆくだろう。では、そこから税金を取ってはいけない理由があるだろうか? ここが今回の論点である。
ドイツ国民の賃金は上がっていない。しかし、ドイツにはあらゆる形で資金が流入している。であれば、ドイツはドイツの気質に則り、有事に備えて資金を貯蓄することができる。
緩和的な金融政策、緊縮的な財政政策
要するに資産バブルに課税をするということである。外国人労働者の流入で企業が得をし、労働者である家計が損をするというのであれば、法人税を上げ消費税を下げることができる。不動産市場が加熱し過ぎるということであれば、不動産税を上げることができる。いずれにせよ、ドイツに過剰な資金や労働資源が流入するのであれば、それに課税をすることができるのである。
こうして蓄えられた税金は、総合すれば、ギリシャなどがデフォルトを宣言した場合などのドイツの負担を恐らくすべて補ってしまうだろう。ドイツの財政はますます強固なものとなり、量的緩和の終了後もドイツ国債の需要はそれほど衰えるとは考えがたい。
一方、米国債をも上回るほどに過大評価された南欧諸国の国債は、量的緩和が終了するときには大暴落をすることになる。結局のところ、ギリシャがデフォルトをちらつかせたところで、最終的に得をするのはやはり経済が強い国ということになる。
ドイツのための選択肢
恐らく、ドイツにとって重要な点は、量的緩和が行われている間に課税を始めるということである。そうすれば、量的緩和の終了時に課税を緩めることによって、大規模な流動性の縮小を和らげることができる。これは米国や日本などには不可能な政策である。
緊縮財政を愛するドイツがその基質をバブルにも適用するならば、ドイツは量的緩和バブルの崩壊を回避する唯一の国となるかもしれない。勿論、上記の課税はまだドイツ国内で議論されてもいないが、ドイツの不動産や株式が本当にバブルに向かって進んでゆくとすれば、将来的には有り得る選択肢である。そして、量的緩和バブルが崩壊するときに、買い下がることのできる株式市場があるとすれば、それは投資家にとっても喜ばしいことである。ドイツにおける資産バブルについては、前回の記事も参考にしてほしい。