新型コロナウィルス肺炎が世界中に広がるなかアメリカは既に大幅利下げを行なったが、効果が疑問視されている上にアメリカまでゼロ金利に達して弾切れになってしまう懸念まで生まれている。
そこで中央銀行は利下げ以外の手段を必死に探しているが、ボストン連銀総裁のローゼングレン氏が非常時の量的緩和について語っているので紹介したい。
ゼロ金利後のアメリカの金融政策
新型コロナウィルス肺炎がアメリカやヨーロッパを含む世界中に広がり、世界中の株価が急落したことを受け、アメリカの中央銀行Fed(連邦準備制度)は3月2日に緊急の大幅利下げを行なった。しかしその効果は芳しくなかった。
結果としてアメリカの長期金利は1%を大幅に下回り、追加緩和の余地は少なくなってきている。そこでローゼングレン氏が持ち出している議論が投資家にとってはなかなか興味深い。
新型コロナウィルスのために長期金利がゼロに近づき、長期国債の購入によっても金利の低下があまり見込めない状況下では、マービン(訳注:経済学者のマービン・グッドフレンド氏)が1999年の論文で指摘したように、中央銀行にはより幅広い証券や資産の購入を許可すべきだろう。
ただ、その場合には連邦準備法の改正が必要となる。マービンの分析にもあったように、中央銀行がそうした政策を採用するためには、中央銀行が損失を出した場合には財務省がそれを補填するという明示的取り決めがなければならないだろう。
要するに日銀型のリスク資産の買い入れだろう。実は日本の金融政策は常に世界の最先端を行っている。2000年代に量的緩和を始めて開始したのは2001年の日銀であり、リーマン・ショック後のアメリカではない。quantitative easingという英語も実は日本語の量的緩和を英訳したものである。
それが名誉か不名誉かは別の話だが、中央銀行に株式を買わせることについても日本が先駆者であり、ローゼングレン氏はそれを真似することを考えているようである。それが実現すれば株式市場にとって大きな買い圧力となることは間違いなく、投資家としては無視できない情報だろう。
アメリカの追加緩和余地
しかしアメリカにとっては現在残されている手段を使い切るのが先で、株式買い入れはその後である。
だとすれば、現在の緩和余地はどうなっているだろうか? まず、アメリカの政策金利は1.00%から1.25%のレンジに設定されており、1段階の利下げで0.25%の切り下げが行われるので、ゼロ金利までの緩和余地は利下げ4回ということになる。
3月2日の利下げの後はどうなるだろうか? Fedによる次のFOMC会合は3月18日だが、金利先物市場の予想では0.5%の利下げ、つまり2段階の利下げが再び行われる確率を100%としている。これは市場の予想である一方で中央銀行に対する市場の要求でもある。この状況下ではFedのパウエル議長は従うほかないだろう。
つまり、3月後半には利下げ余地はあと2回になっているということである。その後はどうなるだろうか? 18日の会合後、年末までに何回の利下げが行われるかについての市場予想は次のようになっている。
- 利下げなし: 21.4%
- 利下げ1回: 43.9%
- 利下げ2回: 27.4%
- 利下げ3回: 6.6%
- 利下げ4回: 0.7%
何と3回以上の利下げの可能性が存在している。3回以上の利下げとはつまりマイナス金利である。アメリカの金融市場がついにマイナス金利の可能性を織り込み始めた。
アメリカの当局者の中にはマイナス金利に懐疑的な向きが多い。ローゼングレン氏もリスク資産買い入れを推奨した上でマイナス金利は副作用が大きいとしている。金融市場はそれでもマイナス金利を織り込み始めている。
ただ、金融政策は新型肺炎相場に効くのだろうか? 元財務長官のラリー・サマーズ氏は懐疑的な意見を示している。
サマーズ氏はむしろ中央銀行の弾切れの危険性を指摘している。サマーズ氏は経済学者には珍しくヘッジファンド業界の尊敬を集めている人物である。
そして市場に効くかどうかという問題の他に、経済に効くのかどうかという問題も残っている。ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを率いていたスタンレー・ドラッケンミラー氏は、先進国の低成長の原因は量的緩和だと主張している。この主張はなかなか面白いので未読の読者はぜひ読んでもらいらい。
いよいよ量的緩和バブルも終わりが近づいてきたようである。筆者にはそろそろその終わり方がはっきり見えてきたように思える。しかしその話をするのは現在の新型肺炎相場を捌いてからだろう。来週も荒れた相場になりそうである。