世界最大のヘッジファンド: 米国では次の数週間で感染者数が劇的に増加へ

世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログ記事で新型コロナウィルス肺炎に関する最新の相場観を公表している。以前のものはこれである。

ダリオ氏らしいよく整理された考え方で、パニックになっている相場の中で読むのに適した考察なのでここで紹介したい。

状況の整理

ダリオ氏はまず以下のように状況を整理するよう勧めている。

現在起こっていることは3つの側面に分けられる。これらは互いに関係しているが、別々のことであり混同するべきではない。1つはウィルスであり、もう1つはウィルスに対する社会の反応の経済的影響であり、最後は金融市場の動向である。

そしてダリオ氏はまず新型コロナウィルスの流行状況から説明を始める。ウィルスについては「到来してそして去ってゆく」とした上で、流行が全国的に広がるのかどうかが懸念されているアメリカについて次のように語っている。

米国に関しては次の数週間が大きな試練となるだろう。報告される感染者数は劇的に増加し、それは恐らくより深刻な社会的反応と社会的行動制限を引き起こすだろう。

中国、日本、ヨーロッパでは既に広がっているウィルスだが、アメリカではパニックはこれからということである。筆者も最新の感染者情報を注視しているが、残念ながらアメリカ国内の流行は着実に増えているように見える。

面白いのは、ダリオ氏がわざわざ「報告される感染者数」と言っていることである。まるで「報告されていない感染者数」は別のようである。実際、政府によってカウントされている患者数と実際の患者数に大きな開きがあるということはここでは以前から指摘しており、その考え方は日本国内の流行拡大(報告される患者数の増加)を予想するのに大きく役立ってきた。

ダリオ氏は米国のケースで同じようなことを考えているのかもしれない。医療の専門家とも話したと書いてあるから、何か知っている可能性もある。どちらにしても、米国内の本当のパニックがこれからだということは株式市場には悪い知らせである。

経済への影響

さて、次は新型コロナウィルスの経済への影響である。

ウィルスに対する社会の反応によって恐らく経済に大きな短期的下落が起こり、その後リバウンドするだろう。そして経済はそれを長期間引きずることはないだろう。

これは現在多くの投資家が忘れかけていることではないだろうか。この事実をしっかり思い出すだけでもダリオ氏の考察には価値がある。ダリオ氏は次のように続ける。

経済活動を阻害する動きは確かに売上を減少させるが、ウィルスと経済活動が反転するにつれてリバウンドするだろう。そうすると(絶対ではないが)ほとんどの企業にとってはV字かU字の財務状況になるはずである。

現在市場には明らかに売られすぎた銘柄が数多く存在している。しかしそれでも株価は下がったままである。米国では緊急の大幅利下げが行われたが、株式市場の反応は冷淡だった。

金融政策は状況を救うことが出来ないのだろうか? ダリオ氏は否定的のようである。

中央銀行の金融政策に関して言えば、利下げを行ない流動性を増やしたとしても外に出ず買い物に行きたくない人々を外出させることはできない。ゼロ金利に近づくリスクを犯してリスク資産の価格を少し刺激することはできるかもしれないが。

ダリオ氏もやはり米国まで追加緩和の余地がなくなってしまうことを警戒している。また、ECB(欧州中央銀行)と日銀に対してはもっと手厳しい。

ヨーロッパと日本に関しては、金融政策は既に事実上ガス欠であり、金融政策がどう機能できるのかを想像することは難しい。

厳密に言えばECBには量的緩和の規模をもう少し拡大する余地が残っているが、効果は限定的だろう。日銀にはほとんど何も残っていない。金融緩和は2018年の世界同時株安には効いたが、新型コロナウィルスには効かないとする著名投資家が多いように思う。2018年の問題は金融政策だったが、今回の問題は実体経済だからである。

投資戦略

ではこの状況で株式市場では何が起こるだろうか? ダリオ氏は借金漬けの企業に注意するよう忠告する。

ウィルスの影響を一番受ける業界でレバレッジを利かせている企業は恐らく深刻な影響を受けるだろう。

わたしの予想では、一時的なショックに耐えられる銘柄と耐えられない銘柄を市場は上手く区別できず、売上への影響にばかり注意が行き、債務への影響は過小評価されるだろう。例えば一時的に大きい影響を受けるものの現金保有が豊富な企業への影響は誇張され、経済的影響は少ないものの大きな短期債務を負っている企業への影響は見落とされがちになる。

簡単に言えば新型ウィルスの経済的影響は短期的で業績はV字回復するだろうが、それは短期的なキャッシュフローの激減に耐えられる銘柄に限られるということだろう。

例えば日本では神戸でクルーズ船を運営するルミナスクルーズという企業が3月2日に民事再生法の適用を申請した。台風による運行停止や燃料費高騰などでもともと財政が危うかったところに新型ウィルスによるキャンセルが相次ぎ、倒産に至ったという。

こうした会社はホテル業や観光業などに数多くあるはずである。現在株式市場では多くの銘柄が魅力的な水準にあり、読者の中にも買い向かうことを考えている投資家は多いだろうが、数ヶ月から半年の売上ダウンに耐えられる財務状態かどうかは確認しておかなければならないだろう。

また、最後にダリオ氏は買い方にとって面白い推奨をしている。

また、一部の高配当の銘柄がどれだけ魅力的になるかということは非常に興味深い。多くの市場参加者が(訳注:国債などの金利低下によって)投資先から閉め出されている。

緊急利下げによってアメリカの金利が急落している一方で株価の下落によって配当利回りは増加している。ここにチャンスがあると見るのは理にかなった見方だろう。

ちなみに筆者は米国での感染拡大が確認されるまで買いでは入らないつもりである。新型肺炎がヨーロッパとアメリカでピークを迎えた時に株を買い向かうかどうかは、その時に米国の金融政策の状況がどうなっているかによるだろう。以下の記事で説明した通りである。