米国、新型肺炎対策で0.5%の緊急利下げ実施も米国株大幅安

米国時間3月2日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は予定外の緊急会合を開き、0.5%の利下げを決定した。利下げは通常事前に決められたFOMC会合の日に行われるので、それを前倒しして利下げを行なったということである。

問題は、中央銀行がサプライズの大幅利下げを行なったにもかかわらず米国株が下落したことである。順番に見ていこう。

緊急利下げ

緊急会合ではアメリカの政策金利は1.50%-1.75%のレンジから1.00%-1.25%のレンジへと引き下げられた。同時に発表された声明文は短いものなので全文訳してみよう。

米国経済のファンダメンタルズは強いままである。しかしコロナウィルスが経済活動にリスクをもたらしている。こうしたリスクのもとで完全雇用と物価安定という目標を支えるために、今日フェデラルファンド金利のレンジを0.50%切り下げ1.00%-1.25%のレンジとすることを決定した。委員会は状況の推移と経済見通しへの影響を注視しており、経済を支えるために使えるツールを使って適切に行動するだろう。

「適切に行動する」というwill actの文言が継続しているので、緩和はここでは終わらず今後更なる救済措置を行うことに含みをもたせた言い方である。

利下げ幅は0.50%だが、利下げは通常1回で0.25%引き下げるのが通例なので今回は2回分の利下げとなり、ゼロ金利までの利下げ余地は残り4回ということになる。

大統領の利下げ要請

ちなみにこの緊急利下げに先駆けてトランプ大統領はTwitterで「パウエル議長と連邦準備制度はいつも通り動きが遅い」として中央銀行を批判し、米国も他国と同じように低金利を持つべきだと主張していた。その直後の利下げとなる。

パウエル議長は表立っては認めないだろうが、Fedはここ数年トランプ大統領の後塵を拝している。トランプ大統領は2018年の世界同時株安でもFedの金融政策を「狂ってる」、「どうかしている」、「ばかげている」、「小ざかしい」などと批判していた。

この批判は2018年に株価が本格的に暴落する前に行われ、しかも当時の株安の原因がFedの金融引き締めにあるという指摘も当たっていた。そしてその後パウエル議長は結局金融引き締めを撤回し、利下げを行うこととなる。

トランプ大統領にこうしたことが出来たのは、彼が第一線の著名投資家と個人的に親しく、彼らから助言を貰っているからである。しかし今回はどうだろうか。トランプ氏が気づいていないことが1つある。中央銀行が利下げを行わないことよりも、利下げ余地を使い果たしてしまうことの方が金融市場にとってよほど大きなリスクだということである。このことについても以前書いている。

金融市場の反応

さて、新型コロナウィルス肺炎の世界的流行を受けて3月の相場がどういうものになるかについては既に書いている。

3月の相場は利下げによる中央銀行からの流動性という好材料と欧米での流行拡大という悪材料がぶつかり、どちらが勝つかという相場になることになる。

2018年の世界同時株安は利下げと量的緩和で防ぐことが出来た。それは2018年の世界同時株安の原因が中央銀行自身による金融引き締めだったからである。だから中央銀行は自分でその原因を取り除くことが出来た。

しかし今度は中央銀行はウィルスという外部要因と戦うことになる。どちらが勝つだろうか。悪材料が出尽くしていれば中央銀行が勝つだろうが、そうなってはいない。

そして中央銀行は実際に大幅利下げを行なった。利下げは3日の米国市場の開始直後に行われたが、3日の取引では米国株はどうなっただろうか?

前日比2.81%の大幅下落となった。

あと6回しか残っていなかったゼロ金利までの利下げ余地を2回使い果たして株価はポジティブには反応しなかった。ここから先には2つのシナリオがある。

まずは新型肺炎による下落相場を金融政策では救うことが出来ず、流行のピークまで下落相場が続く場合である。

もう1つは金融政策の成否を1日の値動きで決めることはできず、この日の下げが中長期的トレンドを反映していない場合である。

前者であれば投資家としては非常に分かりやすい相場となる。2003年のSARSの時と同じく流行のピークが相場の底値となるからである。投資家はここでも度々報じている各国の患者数のデータを追っていれば良いということになる。

しかしいずれにしても中央銀行にとってはまずい状況となった。本当に今回の新型肺炎相場で先進国すべての中央銀行が追加緩和の余地を使い果たしてしまうかもしれない。

そうなれば人類にとって完全に未知の領域である。中央銀行の金融緩和によって支えられてきた1980年代以後の上げ相場のバブルが、もうすぐ終わろうとしている。