アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)が3月半ばのFOMC会合に先駆けて手を打ったようである。パウエル議長による声明文が発表されたので、今回の記事ではそれを紹介したい。金利の最新情報にも触れたいと思っていたところなので丁度良いだろう。
声明文
先ずはパウエル議長による声明文から見て行きたい。短いものなので訳したものを全文掲載する。
米国経済のファンダメンタルズは強いままである。しかしながら、コロナウィルスによる経済活動へのリスクが高まっている。中央銀行は状況とその経済動向への影響を注視している。経済を支えるために存在する手段を使って適切に行動するつもりである。
一見こうした状況で発表する定型文のようで意味がないように見えるが、それは日本語に訳すと重要な意味が消えてしまうからである。しかし最後の「行動するつもりである」の部分は原文ではwill actとなっており、これは英語のニュアンスでは何らかの行動を起こすことを確約した意味となる。少なくともこの文章で何も行動を起こさなければ嘘をついたことになる原文である。
さて、では「何らかの行動」とは何かだが、米国時間3月18日のFOMC会合における利下げのことを指す可能性が高い。金利先物市場も同意見のようで、既に3月のFOMC会合における利下げを100%織り込んでいる。つまり利下げが行われない可能性はゼロだと見ているということである。
急な利下げを催促する金利先物市場
ただ、市場の織り込みはそれだけではないようである。3月の会合における利下げ確率の織り込みを厳密に見てみよう。
- 利下げなし: 0%
- 0.25%利下げ: 5.1%
- 0.5%利下げ: 94.9%
何と0.5%の利下げをほぼ確実だと織り込んでいる。通常の利上げは1回につき0.25%なので、2段階の利下げを既に織り込んでいることになる。
これは予想というよりは市場の要求である。叶えられなければ更に株価が下がるぞと脅しをかけているのである。
これをパウエル議長が呑むかどうかだが、わたしの予想では彼は呑むだろう。市場に逆らうとどうなるか、彼は2018年の世界同時株安で思い知ったからである。パウエル議長は2018年12月当時、市場が暴落していたにもかかわらず金融引き締めを撤回しないと声高に主張し、当時暴落の開始前から株を空売りしていたわたしはそれを「空売り派への満額回答」と呼んだ。
パウエル議長のこの発言が下落相場にとどめを刺す結果となり、Fedは結局方向転換を迫られることとなった。
パウエル議長はこの時のことがトラウマになっているはずであり、また市場に逆らって決定をしても結局最後には従わなければならなくなるということを学んだはずである。だから3月の半ばまで金利先物市場がこのまま2段階の利下げを織り込み続けるのであれば、FOMC会合の結果も2段階の利下げになるだろう。
ちなみに年末までに合計何回(何段階)利下げが行われているかについての市場予想は次のようになっている。
- 0回: 0%
- 1回: 0.2%
- 2回: 4.0%
- 3回: 20.0%
- 4回: 35.5%
- 5回: 28.0%
- 6回: 10.5%
- 7回: 1.8%
年末までに4回、つまり1.00%の利下げがメインシナリオだと市場は織り込んでいるようである。ちなみに現在のアメリカの政策金利は1.5%なので、0.25%の利下げを7回行うとマイナス金利となる。その可能性も1.8%あると市場は考えているということである。
相場への影響は
さて、来週は面白い相場になりそうである。パウエル議長が利下げを行うつもりであることは株式市場にはプラスである。一方で市場にとっての問題は新型肺炎に関する悪材料が出尽くしていないということである。来週か再来週には以下の2つのイベントが発生する可能性がある。
- ヨーロッパでのウィルス流行がイタリア以外の国に拡大
- アメリカでの国内流行が拡大
つまりはヨーロッパとアメリカで流行が広がる可能性がまだ残されているということである。
筆者はヨーロッパにおける流行拡大は不可避だと予想している。イタリアの感染者数は既に1,100人を超えており、そのイタリアと国境を接しているフランスやスイス、オーストリアは国境を開けたままにしている。これで感染が広がらないとすれば奇跡だろう。
一方でアメリカでの流行拡大はヨーロッパよりも不確かだが、感染経路不明の流行がいくつか出ていることを考えるとこちらも国内流行拡大がメインシナリオのように思える。これら2つのシナリオは来週か再来週には明らかになると思われ、その時には市場は次の試練を迎えることになる。
したがって3月の相場は利下げによる中央銀行からの流動性という好材料と欧米での流行拡大という悪材料がぶつかり、どちらが勝つかという相場になることになる。
2018年の世界同時株安は利下げと量的緩和で防ぐことが出来た。それは2018年の世界同時株安の原因が中央銀行自身による金融引き締めだったからである。だから中央銀行は自分でその原因を取り除くことが出来た。
しかし今度は中央銀行はウィルスという外部要因と戦うことになる。どちらが勝つだろうか。悪材料が出尽くしていれば中央銀行が勝つだろうが、そうなってはいない。
以下の記事で紹介したような個別銘柄を空売りしている投資家で、十分に利益が得られた場合にはここで利益確定するのも悪くない選択肢であるのかもしれない。確実な部分だけを取るのは投資家としては良い戦略である。
一方で更なる感染拡大が不可避であることもまた妥当な予想のようである。日本では東京オリンピックの中止が真剣に議論され始めるシナリオもまだ残っている。個人的には暴落している原油の底値買いを狙っているが、買いで入るタイミングはまだ先だろう。底が厳密に何処になるかは問題ではない。100%売り材料の時に売り、100%買い材料の時に買えば良いのである。