中国武漢発の新型コロナウィルス肺炎が日本とイタリアにも飛び火し、これまで大きく反応していなかった金融市場も騒ぎ始めた。今回の記事で取り上げたいのは、普段あまり取り上げていないBerkshire Hathawayのウォーレン・バフェット氏の新型肺炎に関するコメントである。
バフェット氏はCNBCのインタビューで次のように説明している。
はっきり言っておくが、Birkshireのビジネスのかなりの部分が何らかの形で新型肺炎の影響を受けている。
バフェット氏のBirkshire Hathawayは保険業を始めとして様々な種類のビジネスを保有する大型のファンドのようなものである。Birkshireはもともと織物業だったが、社内に資金が余っていることに着目したバフェット氏によって買収され投資ファンドになったのである。
バフェット氏はBirkshireの保有する様々なビジネスが新型肺炎によって影響を受けている様子を説明する。
中国にはアイスクリームチェーンのDaily Queenの店舗が1000くらいあるが、ほとんどは閉まっている。開いている店舗も言うほどの商売になっていない。
Birkshireのより大きなポジションは例えばAppleである。BirkshireはAppleの5.6%を保有しているが、Appleが言うには新型肺炎は店舗の閉鎖だけではなくサプライチェーンなどあらゆる面で影響を及ぼしている。他にもBirkshireの保有する一定数の企業がサプライチェーンを通じて影響を受けている。
以前の記事では航空株や空港株など新型肺炎で直接影響を受ける銘柄を取り上げた。
しかしそうした銘柄以外にも幅広い企業が新型肺炎の影響を受けている。バフェット氏のように自分の保有する企業を通して得た情報で語る語り口には重みがある。1つ1つの銘柄に深く関われるのはバフェット氏のような長期投資家の強みである。グローバルマクロのヘッジファンドではある業界を空売りしようと思えば、個別株に立ち入らずにその業界のETFを売買することで済ませてしまうことも多い。
では、新型肺炎の影響を誰よりも痛感しているバフェット氏は投資家としてどうするのか? 彼は次のように言う。
われわれは株を売らない。
何故か?
投資家はビジネスを買っているのだから、株とはそういうものだと理解しなければならない。10年でも20年でも保有するのだから。この24時間や48時間で10年や20年の見通しが変化しただろうか?
American ExpressやCoca Colaなど、Birkshireが部分的に保有するビジネスの多くは今日明日のニュースで売ったり買ったりすべき株ではない。仮にそれで下落したとしても、それは好きなものを買える好機であり安く買えるのだから喜ぶべきだろう。
これが長期投資家の見方である。そもそもバフェット氏は年中買い方の投資家なのだから、下落相場で空売りするという考え方はもともとないのである。
短期か長期かというのは投資家にとって非常に重要である。短期投資家にとっての絶好の売り場が長期投資家にとっての絶好の買い場ということもある。バフェット氏は決して新型肺炎で株が下落しないと言っているのではない。彼は次のように言っている。
明日の株価にはどんなことでも起こりうる。市場はたまに大きな下落を経験する。50%かそれより大きいこともあるだろう。
それでもバフェット氏には関係ないのである。2008年のリーマンショックではBirkshireの株も暴落した。しかし米国株への徹底した長期投資はそれを補ってあまりある長期リターンをBirkshireにもたらしている。
今の相場に話を戻そう。月曜は日本市場は休場だったが、その間にシカゴ日経平均先物は5%近く下げている。今日は荒れた相場になるだろう。この状況で投資家にとって重要なのは、自分の投資スタンスがどういうものかということである。バフェット氏のようなスタンスであれば下落を受け入れるのも良いだろう。そうでなければ、事前に予測し手を打つ必要がある。それで1月からずっと新型肺炎について書いてきたのである。
市場は今週から慌て始めるだろうが、事前にここまで予測していた投資家はそろそろ下落の底について考え始める時期である。レイ・ダリオ氏の発言を再び引用しておこう。
一般的にはこうした一生に一度のレベルの災害はまず最初に過小評価され、そして状況が進むにつれて過大評価される。
次の段階に進みつつあるのである。