ドラッケンミラー氏の買っている米国株個別銘柄(Form 13F)

毎四半期恒例、機関投資家が米国株買いポジションを公開するForm 13Fの時期である。まずはジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを率いたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のポートフォリオを見てみたい。

米国株買いはいつまで続くか

ドラッケンミラー氏はタイミングに関して天才的な勘を持った投資家である。2016年11月の大統領選挙の直後、多くの人が「トランプ氏が大統領なら株価暴落」と言っていた時期に真っ先に強気転換したのが彼だった。

そして2018年の世界同時株安の後、2019年の上げ相場に真っ先に乗ったのも彼だった。2018年からの米国株買いポジションの総額の推移は以下の通りである。

  • 2019年9月末: 26億ドル
  • 2019年6月末: 34億ドル
  • 2019年3月末: 34億ドル
  • 2018年12月末: 17億ドル(世界同時株安底値)
  • 2018年9月末: 21億ドル
  • 2018年6月末: 21億ドル

底値では買えなかったようだが、それでも3月には買いポジションを倍増させその後の上げ相場にはきっちり乗っている。そして今回開示された2019年12月末のデータでは、9月末にポジションを減らしたのを後悔したのか26億ドルから34億ドルにもう一度増額している。

米国株個別銘柄

これは12月末のデータであるため、ドラッケンミラー氏が新型コロナウィルス肺炎を受けて考えを変えたのかどうかは分からない。しかし米国株は今でも上昇しており、ドラッケンミラー氏の銘柄選択は参考になるだろう。

個別銘柄をポジションの大きいものから見ていこう。

iShares Russell 2000 ETF – 2億5681万ドル

まずは米国の小型株指数Russell 2000のETFである。主要銘柄を集めたS&P 500との違いは、S&P 500だけが上がっている時は指数が無理矢理押し上げられていること、S&P 500とRussell 2000が両方上がっている時は市場全体に資金が行き渡っているということである。バブル崩壊時にはS&P 500よりも先にRussell 2000から下落することが多いため、ソロス氏などはそういう状況にこのETFをよく空売りしている。

逆にこれを買っているということは、ドラッケンミラー氏は現在実質的に行われているアメリカの量的緩和によって市場全体に資金が溢れると読んでいるのだろう。

Microsoft – 2億5554万ドル

ETFを除く個別銘柄ではMicrosoftがトップとなった。これでも9月末の5億5538万ドルからかなり減額されてこの数字である。2020年に入ってからの上げ幅がすさまじい。個別銘柄トップがこの上昇で喜ぶべきか、半分も利益確定したことを悲しむべきか、ドラッケンミラー氏本人はおそらく落ち込んでいるのではないか。

Workday – 2億4923万ドル

企業に対してクラウドベースの人事・財務情報管理ソフトを提供する会社で、SAPなどの競合である。売上高成長率が30%近いが赤字が続いている典型的なグロース株である。こういう銘柄が上昇する時は基本的に市場に資金が余っている時である。

Netflix – 1億8860万ドル

オンライン動画視聴サイトで、これもグロース株である。Workdayと似た値動きになっているが、WorkdayもNetfilxも年末までの3ヶ月でポジションが倍増しており、タイミングの名手ドラッケンミラー氏の面目躍如となっている。

iShares MSCI Emerging Markets ETF – 1億8240ドル

新興国株ETFである。市場に資金が余っていない時は市場では先進国が優先されるが、資金が余り始めると新興国にも資金が回り始める。繰り返しになるが新型ウィルス以前のポジションであり、今後このポジションがどうなっているかに注目したい。

JP Morgan Chase – 1億7929万ドル

最後はなかなか面白い。大手銀行のJPモルガンである。なぜ面白いかと言えば、銀行株が上昇するのは金利上昇時であり、ドラッケンミラー氏が市場の金余りにもかかわらず低金利よりは金利上昇に掛けていることを意味する。それはドル高を意味することにもなる。しかも前回無かった新規のポジションであるため、ドラッケンミラー氏はここから金利高、ドル高になると読んでいるのである。

結論

小型株、ハイテク株、グロース株、新興国株という典型的な流動性相場の銘柄に金利上昇の銀行株を加えた典型的なリスクオンのポートフォリオである。ドラッケンミラー氏のポートフォリオの組み方は非常に分かりやすい。個人投資家でも真似しやすい組み方なのではないか。グローバルマクロの教科書のようなポートフォリオである。

一方でソロス氏のアメーバのようなポートフォリオの凄みはないと言える。ドラッケンミラー氏はよくも悪くも単純明快なのである。当たれば大儲け、はずれれば大損である。

一方でソロス氏やダリオ氏などのポートフォリオは1つのシナリオに賭けるだけではなく、想定されるどのシナリオになってもある程度やってゆけるように二重にも三重にも保険が掛かっている。深みのあるポートフォリオなのである。

そのソロス氏だが、今回のForm 13Fでは減額続きのポジション総額を更に減額しただけで、中身に動きがまったくないポートフォリオがもう何回も続いている。流石に年だということもあるのだろうが、今年のダボス会議でのインタビューでもかろうじて喋っているような印象だったので少し心配している。御年89歳である。ただ、それでも今年の相場について少し喋っていたので、それも取り上げておきたいと思っている。