毎年恒例のことだが、現在スイスでは世界経済フォーラム(通称ダボス会議)が行われている。例年通り世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が相場観を表明しているので紹介したい。
2020年の株式相場は今のところ力強いトレンドになっている。このことについてダリオ氏は次のように述べている。
誰もが乗り遅れたため、誰もが乗ろうとしている。
現金はゴミだ。現金から離れるべきだ。いまだ多くの資金が現金のままになっている。
2018年の世界同時株安を受けてアメリカの中央銀行が金融引き締めから金融緩和への大転換を行って以来、特にアメリカの株式市場は怒涛の勢いで上昇してきた。「列車に乗り遅れた」と感じているヘッジファンドマネージャーも多く、ダリオ氏は同業者のそういう雰囲気を表現したのだろう。
しかしここの読者は「現金はゴミ」というフレーズにデジャヴを感じるのではないか。2018年の同じくダボス会議におけるダリオ氏のコメントである。
ちなみにこの時、ダリオ氏の発言の直後に株式市場は急落することになり、ダリオ氏は相場観の撤回を余儀なくされた。
この失敗が記憶に新しい状況で「現金はゴミ」発言をするのは勇気あることだが、今回は前回のようにはならないだろうか。前回との大きな違いは、前回は中央銀行が金融引き締めを行っていた一方で、今回はそれが既に撤回されているということである。
一方で、仮に列車に乗るとしてもいつ降りるのかということが問題になる。ダリオ氏は次のように述べている。
列車から降りるとは言うが、降りて何処に行くかが問題だ。現金を逃避先に選ぶことはできない。現金はゴミだ。中央銀行が紙幣をいくらでも印刷している。
列車から降りるときにも現金を選んではならないという。ダリオ氏は量的緩和による貨幣価値の暴落、つまりハイパーインフレを懸念しているのだろうか。そして現金、つまり預金のもう1つの問題はマイナス金利である。ダリオ氏は次の景気後退時にアメリカでもマイナス金利になる可能性を指摘している。その時現金や預金、短期の債券の価値はどうなるだろうか? ダリオ氏は次のように言う。
われわれは債券を保有していて、そして金利がマイナスになる。それはいつまで続けられるだろうか? 次の5年はどういうものになるだろう。負債も増えることになる。負債が増えれば債券が増える。
しかしその債券はマイナス金利であり、保有すれば保有するほど資産が目減りしてゆく。
しかしそんな債券をどうして保有したいだろうか? わたしが間違っているのかもしれない。しかしどういう状況であればそんなものを保有することが理にかなうのか教えてほしい。
そうなれば資金の流れは現金から逃げてゆくとダリオ氏は主張したいのだろう。ではどうすれば良いか? ダリオ氏は次のように推奨する。
世界中に分散すること、バランスの取れたポートフォリオにすること、一定量のゴールドを保有することだ。
わたしが強調したいのは少しのゴールド保有がポートフォリオに多様性を与えるということだ。こういうことを喋るとまたメディアが「レイ・ダリオはゴールドに強気」とでも書き始める。でも現金はゴミなんだ。
ダリオ氏は現金(つまりは短期国債とほぼ同じものである)がよほど嫌いらしい。しかし量的緩和でハイパーインフレは起こるだろうか? 筆者が予想する量的緩和バブルの終わりはハイパーインフレではなくデフレと不況である。例えばリーマンショックでも国債から資金は逃避せず、長期国債は上昇した。
しかしダリオ氏がインタビュー中しきりに次の景気後退がどのようになるかを議論しようとしていたように、次のバブル崩壊がどのようになるのかを考えておくことは重要だろう。中央銀行が作り上げた量的緩和バブルの結末はどうなるのだろうか? リーマンショックとはまた違った何かになるだろうということは、ダリオ氏も筆者も合意するところである。