トランプ大統領は利下げ停止に感謝すべき

11月13日、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のパウエル議長は議会証言で現在の金利水準が適切であると述べ、今年3回行われた利下げを当面停止する意思を表明した。

これは中央銀行に金融緩和を要求し続けてきたトランプ大統領には不服の残る決定かもしれない。しかし2020年11月の大統領選挙を控え、実際にはトランプ大統領にとって最良の結果となったのではないか。もしかすると、トランプ氏も口では不平を言いながら内心ではほっとしているかもしれない。

演出された米中貿易戦争

というのは、トランプ大統領は明らかに大統領選挙の日付を意識して実体経済を操作しているからである。米中貿易戦争が2019年終盤から解決に向かい始めたことは偶然ではない。大統領選挙が2020年11月ならば、その半年から1年ほど前に米中貿易戦争が解決すれば、そのポジティブな影響は大統領選挙の頃に実体経済に現れているだろう。米中貿易戦争はアメリカ経済全体にはあまり影響を及ぼしていないが、農家や工業地帯を票田とするトランプ氏には重要なことである。

つまり、米中貿易戦争は最初からトランプ氏のショーであり、それがこの時期に解決することも最初から仕組まれていた。債券投資家のガンドラック氏が指摘していた通りである。

これと同じように、トランプ氏は経済を押し上げる低金利を中央銀行に要求し続けていた。特に2018年の世界同時株安の頃にはトランプ大統領の悲痛な声が聞かれた。高金利のために株価バブルが弾けてしまえばトランプ氏に再選の可能性はないからである。

見事なのはトランプ氏がその懸念を株安が深刻化する前に表明し、Fedのパウエル議長に警告していたことである。

しかしパウエル議長はトランプ氏の警告を無視し、株式市場は12月の底値へと下落してゆくことになった。Fedが高金利政策を停止したのはその後である。

利下げ停止の大統領選への影響

さて、現状アメリカの政策金利は1.5%で停止しており、言い換えればゼロ金利まで1.5%の利下げ余地があるということになる。

世界同時株安を経てFedが言うことを聞いたことに気を良くしたトランプ大統領は今ではマイナス金利までの利下げを公然と要求しているが、恐らく利下げが止まったことはトランプ大統領にとってプラスの影響をもたらすだろう。

それは何故か? 何故ならば、金融市場にとって一番恐ろしいことは金融緩和が行われないことではなく、金融緩和の手段が枯渇してしまうことだからである。

量的緩和を最大限に行っている日銀にはもはや追加緩和の手段はほとんどない。この状況は世界的な株高になってももはや上がらないドル円に象徴されている。追加緩和の手段がない以上これ以上の円安誘導は不可能であり、ドル円は後は落ちるのみである。

同じように、アメリカが利下げ出来る状況は株式市場にとって上昇の唯一の理由である。以下の記事で書いた通り、筆者は米中通商合意後の株式市場を心配しているが、それでも利下げ余地がある間は一番深刻な事態にはならないはずである。

しかし一番恐ろしいのはこの利下げ余地を使い切ってしまった後のことである。2008年以降金融緩和を頼みの綱として10年以上上昇し続けてきた株式市場は、アメリカの利下げ完了をもってその後の上昇要因が何もなくなってしまう。投資家にしか分からないかもしれないが、相場にとって材料出尽くしは上げ相場の死を意味する。それは量的緩和の作り出した巨大な株式バブルの終わりとなるだろう。

アメリカ国民にとっては、それが大統領選挙の前に来るのか、後に来るのかは重要なファクターである。トランプ大統領はここまでバブル崩壊を何とか綱渡りで回避してきたが、あと1年それを続けることが出来るだろうか?