米中貿易戦争、合意なら株価暴落か

米国株を中心とする世界の株式市場はここ半年ほど米中貿易戦争とイギリスEU離脱が株価にとって最大の問題で、それさえ解決すれば株価が下落する理由はない、という建前のもとで上昇してきた。

建前と言ったのは、それが事実ではないからである。むしろ合意の先を心配する理由が大いにある。ここの読者ならご存知の通り、筆者の言いたいことは米中通商合意自体に株価暴落の原因となるような何かがあるということではない。むしろ投資家であれば一番の関心事である資金の流れの話なのである。金融市場について何も知らない大手メディアとは違い、投資家はそればかり気にしている。

米中貿易戦争とイギリスEU離脱

米国時間11月14日、国家経済会議委員長のカドロー氏は中国との合意に近づいているとの見解を述べた。その他のニュースからも判断すると、米中合意は12月か1月頃に行われる可能性が高そうである。

また、イギリスのEU離脱も12月12日のイギリス議会選挙で2016年の国民投票から長らく続いた議論に結論を出すことになるだろう。

株式市場では目下この2つが注目の的であり、株式市場はこれらが解決されれば株価は上昇しかないと主張するかのように上を向き始めている。以下は米国株のチャートである。

しかし冷静に考えてもらいたいのだが、これらの問題は世界経済に対してどれだけの影響を持つだろうか。片方はアメリカと中国の貿易であり、もう片方はより小さいイギリスという国の貿易にだけ関わる問題である。

これらの問題が重要だというメディアの主張を鵜呑みにしながら、各国のGDPに対して貿易がどの程度の大きさかということを具体的な数字で知っている人がどれだけ居るだろうか? しかし誰もそれを気に留めない。具体的な数値を知りたい人は以下の記事に書いてあるので参考にしてほしい。

いずれにしても、わたしの言いたいのは米中貿易戦争もイギリスEU離脱も金融市場にとっては本当は些細な問題だということである。しかし短期的には市場はそれを口実に動いている。だからその口実がなくなった時の動きが問題となるのである。

米中合意のその後

本物の投資家はそういう些事を気にせず、より大きな影響を与える要因について考えている。一部の国のGDPの一部にしか影響を与えない上記のような問題とは違い、常に株式市場全体に影響を与え続けるものがある。それは金利と流動性(市場に資金がどれだけあるか)である。

2018年、アメリカの中央銀行は利上げと量的引き締めという2つの金融引き締め政策を行っていた。簡単に言えば金融市場から資金を吸い上げていたのである。わたしはアメリカの金融引き締め政策は株価暴落を引き起こすとここに書いたが、中央銀行家は金融引き締めは大した問題ではないと主張していた。

結果、世界同時株安は起こった。その経緯は以下の記事に書いている。

中央銀行は今なお去年の株安を米中貿易戦争のせいだと主張しているが、メディアの報道を鵜呑みにせず自分で考える投資家はそれが事実ではないことを知っている。問題は、その株安が本当に収束したのかということである。

中央銀行は自分のせいではないと言いながら金融引き締め政策を撤回したため、金利は下がり、中央銀行が流動性を吸い上げている状況はなくなった。

この状況で考えることは1つである。その措置は世界同時株安を引き起こした流動性の枯渇を解決するために十分だったのだろうか?

その問題を考えるためには、金利の絶対水準を考えるだけでは意味がない。実際に市場がどう反応しているのかを調べることが一番である。

先ず参考になるのは、現在の株高が株価指数だけ釣り上げられて出来たものなのか、それとも市場全体がしっかり上がっているのかということである。先ずはアメリカの主要な株価指数S&P 500のチャートを再掲しよう。

そして次はマイナーな銘柄を纏めた小型株指数Russell 2000のチャートである。

一目瞭然であり、2018年の世界同時株安から回復したのは主要指数に含まれている銘柄だけである。その他の小型株は2018年の高値を奪還できていない。つまり株式市場全体に資金が行き渡っているわけではないのである。

もう1つ基準になるのは、今年に入ってから株価と国債価格が逆相関になっていることである。国債は価格が下がれば金利が上がるように出来ているが、現状は株価が上がればリスクオンで金利も上がる(つまり国債価格は下がる)状態となっている。

債券投資家でなければこの状況の何が悪いのか分からないかもしれないが、流動性の行き渡っている相場では株価と国債価格は同時に上がる。2008年以降の量的緩和による上げ相場とはそういうものだったのである。しかし現状では債券と株式が資金を奪い合っている状況にある。これも1つ流動性が足りていない証拠である。

まとめ

米中貿易戦争とイギリスEU離脱の問題が解決されるとき、株式市場は短期的には上がるだろうが、その後は本当の問題が試されることになる。市場に資金が足りているのかということである。

問題解決は12月か1月になるだろうから、株式市場の頂点までにはまだ時間があることになる。しかし個別株は指数よりも先に天井に近づくものもあり、そうした銘柄は先に売っていっても良いだろう。例えば前回の記事である。

ただ、仮に米中合意の後に株価が下落したとしても、それも実は一番深刻な問題ではない。何故ならば、何か問題が生じた時にはアメリカには金利を下げる余地が残されているからである。

一番の問題は、アメリカが金利を下げ終わった後の話なのである。アメリカは実質的に量的緩和を既に行っているので、利下げ余地を使い果たしてしまえば中央銀行に出来ることはほとんどなくなってしまうのである。

それは量的緩和バブルの本当の終わりになるかもしれない。その話については以下の記事に書いているので、そちらも参考にしてほしい。