10月11日、米国の中央銀行であるFedは債券買い入れによりバランスシートを拡大することを発表した。要するに中銀が国債を市場から買うことによって市場に資金を注入するということであり、少し前まではそれは量的緩和と呼ばれていた。しかしパウエル議長は今回これを量的緩和とは呼びたくないようである。
「量的緩和」再開
とにかくFedが何を発表したかを確認しよう。Fedは短期金融市場の安定化のため、毎月約600億ドルの国債を買い入れる。この措置は少なくとも2020年第2四半期まで行われる。行われることを客観的に見れば、これは量的緩和である。
ただ、前回の記事でも述べたように、今回の措置は短期金融市場の混乱への対策であり、長期金利に対する影響は少ないとFedは強調している。短期金融市場で最近何が起こったかについては、前回の記事で説明してあるのでそちらを参考にしてほしい。
それでも国債買い入れは国債買い入れであり、量的緩和によって長期金利が下がったことが不動産市場や株式市場に影響したように、短期市場から国債を吸い上げることは元々短期国債を持っていた投資家の資金を別の場所に追いやることになり、長期国債の金利にも影響を与えるだろう。
そこで、問題となるのは金額である。月額600億ドルというのはどうなのか? 例えば前回のFedによる量的緩和は元々月額400億ドルで開始し、途中で850億ドルに増額され、その後徐々に減額されながら停止された。
要するに買われる国債が短期側であることはさておき、金額で言えば結構な規模の措置ということになる。
「量的緩和」
パウエル議長はこの措置を「量的緩和と混同しないように」と言っているが、投資家にとっての問題はこの措置がどういう名前で呼ばれるかということではない。
一番の問題は、今の状況から長期国債を積極的に買うような本来の量的緩和を始めたいと思ったとしても、それが大した追加緩和にならないだろうということである。現状から「本来の量的緩和」への変更とは、単に買い入れる債券を長期国債へと切り替え、月額600億ドルを850億ドルへ増額する程度のものである。金融危機や景気後退が起きたときにそういう変更を発表して市場にどれだけの効果があるだろうか?
つい先日ECB(欧州中央銀行)も量的緩和再開を宣言したが、こちらも買い入れ額に多少の増額余地があるものの、増額を発表したところで衝撃的とは言い難い追加緩和にしかならないだろう。
結論
日銀に緩和余地がもう残っていないことは周知の事実だが、ユーロ圏とアメリカはどうなったか。追加緩和の余地は確かに多少存在する。しかし景気後退や金融危機に対応出来るようなものは既に何も無くなってしまったのではないか。
資産価格とは常に未来への期待によって成り立っている。ビットコイン価格の天井がビットコイン先物の上場であったように、これ以上の資金流入イベントがこの先起きないということを市場が認識してしまえばどうなるだろうか?
世界史上最大の暴落イベントが近づいてしまったのではないか。こうした話は誰もしていないためにこの状況に何の問題もないかのようだが、筆者は非常に憂慮し始めている。世界中の中央銀行が弾切れになったとき、世界市場には何が起こるのか?