2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏の勝利を予想し、その後の相場予想も的中させている債券投資家ジェフリー・ガントラック氏が、New York Magazineのインタビューで2020年の大統領選挙におけるトランプ氏の再選を危ぶんでいる。それどころかトランプ大統領は再選に出馬しないと予想している。なかなか面白いのでここで紹介したい。
米中貿易戦争の行方
現状で大きくニュースになっているのはトランプ大統領の米中貿易戦争である。トランプ政権は中国の閉鎖的な市場の開放などを要求して中国の輸出品に関税をかけているが、トランプ氏が結局中国から有利な譲歩を引き出せるのかが焦点となっている。
この米中貿易戦争についてガンドラック氏は面白い分析をしている。彼は次のように言っている。
トランプは貿易戦争でわざと経済を弱めて中央銀行に利下げと量的緩和を要求し、それが時間差で経済に作用することを狙った危険なゲームをしているのではないか。今利下げを行えば来年の夏には効果が現れるだろう。大統領選の直前だ。関税も、消費者を今怖気づかせて後で関税を外し、今年の分の消費を来年に移そうとしているのではないか。
そうすれば選挙前には経済は上昇しているというわけである。トランプ氏が大統領選挙前の経済データを気にしているのは事実だろう。しかしそこまで自由に経済を操作できるとすれば、それはむしろ才能である。ガンドラック氏は次のように言っている。
そういう戦略はありうるが、かなり危険だ。経済のタイミングをそういう方法で操作することは難しい。
それでなくともトランプ大統領は昨年の世界同時株安が収まったのかどうかひやひやしているはずであり、その上で大統領選挙前の経済データまで調整しようというのは高望みのように見える。世界同時株安については中央銀行を批判しているトランプ氏が正しいのであり、株安の原因を見抜いていち早く指摘しただけでも他の政治家よりよほど相場が分かっているのである。この点については昨年株安が深刻な状況になる前に説明している。
しかしそれでも来年まで相場と実体経済をトランプ氏が維持できるかどうかは分からない。少なくともガンドラック氏は大統領選挙前にアメリカ経済が景気後退に陥ると予想しているようである。
わたしは75%の確率で大統領選挙より前に景気後退に陥ると予想している。
そしてその場合トランプ氏の再選がどうなるかについては、以下のように語っている。
自分がトランプの勝利を初めて予想したのはバロンズ紙上で、2016年の1月だ。その時トランプが勝つオッズは1:500だったが、わたしは彼が勝つと確信していた。
しかし来年の夏までに景気後退になるとすれば、トランプが再選を目指して大統領選に出馬するとは想像できない。その場合、トランプが何を争点に争えるか分からない。
そういう状況に陥ればどうなるか? ガンドラック氏は次のように語る。
トランプは多分リンドン・ジョンソン(訳注:過去のアメリカ大統領で、ベトナム戦争に対する批判が高まり再選を諦めた)のように、自分は出馬しないと言うだろう。景気後退になった場合、自分は勝てないと知っているからだ。そして周知の通り、トランプは負けるのが嫌いだ。だから出馬しないだろう。こんな面白いこともありうる、景気後退の最中に出てきて、「アメリカを再び偉大にする任務は達成された、もうやることはないから出馬しても意味はない」と言うかもしれない。
インタビュワーが「トランプ・ニュース・ネットワークでも始めるのではないか」と冗談を言ったのに対して、ガンドラック氏は次のように答えた。
ありうる話だ。それと、次の大統領選は候補者が3人になるかもしれない。民主党と共和党ともう1人だ。新しい誰かが出てくるのではないかと思っている。ブルームバーグ(訳注:ニュースメディアではなく、その創業者)が最近インタビューに答えたが、興味深かった。単に暇だったからではないだろう。「大統領選には出ない」と言っていたから、出馬の準備だとするのは深読みかもしれないが。
あるいはもしかするとヒラリーがまた出てくるかもしれない。それは本当にありうる話だ。
ガンドラック氏の他に、前回の大統領選ではトランプ氏に肯定的だったもう1人の投資家、スタンレー・ドラッケンミラー氏もトランプ氏の再選は危ういと予想している。
2020年のアメリカ大統領選はどうなるだろうか。ここでずっと予想していたように中央銀行の利上げのつけはいつか回ってこなければならなかったが、トランプ氏の任期中にそれが回ってきたのはトランプ氏にとって災難だった。彼はそれを今のところかわしているが、あと1年かわし続けられるだろうか。トランプ氏の行方に注目したい。