2018年の世界同時株安を見事に予想した債券投資家のジェフリー・ガントラック氏が、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)の利下げは手遅れだとの見解をReutersのインタビューで述べているので紹介したい。
興味深いのは、ガントラック氏がここ最近景気後退を心配しているということである。彼は次のように発言している。
投資家は債券市場がもう長らく景気後退のシグナルを送り続けているということを徐々に理解し始めている。
しかし、実際にはアメリカの実体経済には景気後退の兆候は僅かである。根拠としてガントラック氏が持ち出すのは金利低下とPMIだが、どちらもGDPなどのような実体経済自体の指標ではなく、人々の見方を示したものである。
筆者の考えは、現在の市場の問題は金融政策による流動性の問題であり、実体経済の問題にまで至っていないというものだが、ガントラック氏にはより深い根拠があるのかもしれない。そしてその景気後退に利下げが効力を発揮するのかどうかという問いには、次のように答えている。
利下げが景気後退を食い止めると主張するのは間違いだ。Fedが緩和モードに入っても手遅れだろう。景気後退のモメンタムは既に高まっている。
つまり、利下げは効かないということである。ガントラック氏は一貫してFedの対応を批判している。
Fedは7月にリーマンショック以来初めての利下げをしたが、パウエル議長が利下げは現行のサイクル内の一時的な調整であり、長期的な緩和サイクルが新しく始まったわけではないと主張すると、株式市場は急落を始めた。これについてガントラック氏は次のように述べる。
パウエル議長のメッセージには一貫性がない。FOMC会合が行われるごとに違うことを言っている。「サイクル内の調整」という発言はもう二度と出てこないだろう。
市場が上昇している間は緩和を渋ることも出来たが、下落し始めれば同じことは言えないということだろう。
景気が後退し始め、株式市場が荒れている時に中央銀行の対応が遅れるというのは、リーマンショックの時にも起こったことである。当時、株価暴落前の金利水準をFedは「適切」であると呼んだ。そしてその後すぐに株価は暴落し、Fedは更なる利下げを迫られることとなった。
ガントラック氏はそのような状況の再来を予想しているのかもしれない。株価については次のように述べている。
株価は2019年内に昨年12月の安値をもう一度取りに来るということを年始からずっと信じている。
株価については筆者はガントラック氏ほど過激ではないが、本質的には似た分析をしている。前回の記事を参考にしてほしい。
さて、ガントラック氏の予想が正しいとすれば投資家はどうすれば良いのか? ガントラック氏はゴールドを買っているとした上で、その他の投資対象として6ヶ月物米国債を上げた。かなり短期の国債である。金利は1.92%であり、10年物国債の1.59%よりも高い。金投資については少し記事を書いているので、そちらも参考にしてほしい。
ガントラック氏は以下のように述べ、後手後手になっている中央銀行を批判した。
現在は景気サイクルの内危険な場所にいる。景気拡大サイクルに入って10年になるが、明らかにFedは引き締めすぎたようだ。失業率は遅延指標に過ぎない。世界中でマイナス金利が見られる。Fedが景気拡大を支えたいなら、もっと大胆に動く必要がある。「保険としての利下げ」などというよりも大きく発想すべきだ。
実際の相場はどうなるだろうか。投資家としては興味深い局面である。