ドル円は相変わらず激しい値動きをしているが、ここではより大局的な見方で相場を説明してゆく。
問題となるのはドル円下落の理由である。ドル円は現在106円台で推移している。チャートは以下の通りである。
この原因は何かということだが、前回の記事を読んだ読者は2つの可能性を思い浮かべるだろう。
前回説明したのは、ドル円は先ず基本的にはドルの実質金利に左右されるということである。ドルの金利が高くなれば、高い金利を求めてドルを買う投資家が多くなる。だからドル円とアメリカ実質金利のチャートは基本的に順相関となる。これがドル円を動かす一番基本的な要因である。
一方で、金融危機などの非常時においては、この相関関係が崩れるということも説明した。金融危機においてはドルの実質金利が上がったにもかかわらず、ドル円が下がるということが起こる。
その理由は投資家の手仕舞いである。通常時には投資家のポジションは高金利通貨の買い、低金利通貨の売りとなっているが、リスクオフとなって投資家が手仕舞いを始めると、この動きが逆転し、高金利通貨の売り、低金利通貨の買いとなる。
金融危機時には、こうした投資家のポジション調整による資金の流れが金利というファンダメンタルズ要因を上回るということである。
現在のドル円相場
ここまでが前回の復習だが、では現在の相場はどちらの理由で下落しているのだろうか? それを考えるには、ドル円とアメリカ実質金利のチャートを並べてみればよい。
なかなか面白い構図である。ドル円と実質金利の相関関係は2018年の最初に途切れ、実質金利は上に行き、ドル円は下に行っている。つまり、2018年には投資家の手仕舞いが市場を動かす大きな原因となっていたということである。
一方で、このドル円と実質金利のギャップは2019年に入ってから急速に縮小し、今では相関を取り戻したように見える。
2019年に入って何が起こったかと言えば、パウエル議長のハト派転換である。中央銀行の行なっていた利上げと量的引き締めが世界同時株安の原因であると認めたことで、底なしかと思われた世界同時株安は一旦持ち直した。
恐らく、ドル円と実質金利の相関関係の復活は、パウエル議長の変心によって投資家がパニック的な手仕舞いを止めたことを意味しているのだろう。それはつまり、現在の相場は金融危機というよりは低金利相場になりつつあるということでもある。これは中央銀行と株の買い手にとって明らかに朗報である。
世界同時株安再発の可能性
一方で、パウエル議長には課題も残されている。金融市場が更なる金融緩和を既に織り込んでしまっているということである。金利先物市場は2020年末までにあと5回の利下げを既に織り込んでしまっているが、パウエル議長は利下げは一時的な処置であり、継続して行うものではないと主張している。
ドル円と実質金利の相関関係は確かに市場の混乱が一旦落ち着いたことを示唆している。しかしそれは裏を返せば、パウエル議長がその期待に応えなければ投資家のパニックは再発する可能性が高いということを意味している。7月のFOMCの後に市場が荒れ始めたのもその一部だろう。
パウエル議長はいずれこの問題に直面しなければならない。筆者は引き続きドル円の空売りを続けているが、パウエル議長が引き続きの緩和姿勢を示して金利安となっても、市場の期待を裏切って株安リスクオフとなっても、ドル円の売りにはプラス要因になると考えている。引き続き金融市場の動向を伝えてゆく。