株価がまた世界的に下落している。発端はアメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のパウエル議長の発言だが、問題が単にそういう短期的なものでないことはここの読者であれば周知の事実だろう。
リーマンショックから世界同時株安まで
去年の世界同時株安から何度も繰り返していることだが、もう一度現在の状況を長期的視野から見直してみよう。米国株を中心とする世界の株式市場は、2008年のリーマンショック以来ほとんど一本調子で上昇してきた。以下は米国の株価指数S&P 500の長期チャートである。
この上昇は金融危機以来の世界的な低金利と量的緩和によって支えられていた。しかしアメリカは2014年に量的緩和を終了、2015年には利上げを開始し、更には2017年に量的緩和で買い入れた債券の保有額を減少させる量的引き締めを決定した。金融緩和によって支えられてきた株価がこうした金融引き締めに耐えられるかどうかが機関投資家の間ではずっと焦点となっていたわけである。
そして市場は耐えられなかった。ここでは2018年夏頃に株の空売りを開始したが、その後株価は世界的に急落することとなる。2018年10月の世界同時株安である。
株価が20%も下がったため、金融引き締めを強行するつもりだったFedのパウエル議長も量的引き締めの撤回を余儀なくされた。これが2019年始めのことである。そして7月末のFOMC会合ではリーマンショック以来初めての利下げを決定した。そうした流れを受けて、2019年では株価が世界同時株安の底値から回復基調にあった。特に米国株は去年の下落分を取り戻している。
しかしここに来て市場がもう一度荒れているわけである。しかもそのきっかけとなったのは、利下げという金融緩和を決定した7月のFOMC会合である。
それはどういうことか? それを説明するためには債券市場と中央銀行の関係を説明する必要がある。
緩和を先取りする金融市場
去年の世界同時株安でパウエル議長が金融引き締めの撤回を宣言して以来、アメリカの金融市場は中央銀行が更なる利下げを行うことを期待して推移してきた。それは債券市場や金利先物市場に数字として表れており、市場は今なお今年3回(7月を含む)の利下げを既に織り込んでいる。
一方で、パウエル議長は利下げの実行を予告し7月に実行したものの、3回もの利下げを予告したことはないのである。しかし市場はそれを先回りして織り込んでしまった。
ここでパウエル議長には2つの選択肢があった。市場の緩和期待に応えるか、それを無視するかである。
市場の期待に応えることには明らかな問題があった。緩和をする理由が何も存在しなかったからである。株価がある程度戻った(米国では史上最高値まで戻った)上に、実体経済に問題はもともと起きていない。アメリカの実体経済はむしろ絶好調である。
だから3回もの利下げを肯定しては、中央銀行が市場の催促に屈したということになる。そこでパウエル議長は期待に応えることを止め、7月の利下げは新たな緩和サイクルの開始を意味するのではないと表明した。つまり、利下げは短期的な調整に過ぎず、長期的に行われ続ける保障はないと言ったのである。
それで株式市場の下落が始まったわけである。市場は緩和を期待し、結果として債券市場の金利は下がったが、それが必ずしも株式市場にとって良いものだとは限らない。
金利安自体は株高に貢献する。金利が低くなると、債券を買っていても利息が付かなくなり、投資家は利益を求めて株式などよりリスクの高い証券を買い始めるからである。
しかし既に織り込まれている低金利は、中央銀行が期待を裏切れば金利が上がるということを意味する。そして株が再び下落し、市場は更なる緩和を期待することになる。どうやらこのサイクルが始まったようである。
今後の相場見通しは?
今後の金融市場はどうなるだろうか? 株価は今後も債券市場との綱引きを続けるだろうが、投資家にとってはそれはあまり問題にならない。株価が右往左往する一方で、金利は既に下落トレンド入りしており、仮に金利が上がっても金利高によって株価が下がるので、リスクオフで結局は金利低下となるからである。このような相場では、投資家は単にアメリカの金融緩和の恩恵を受けるようなトレードを行えば良い。
こういう相場になることを予想して、昨年から行なっていた株の空売りを利益確定し、その資金でドル円の空売りを増やしたことは正解だったようである。
こうしたアメリカの低金利トレンドを反映してドル円もかなり下落している。
そもそもドル円の空売りは去年からのポジションであり、安定して利益を上げてくれている。当時の記事は去年の世界同時株安の前のものだが、次のように書いている。
今後、世界の金融市場には2つの方向性が存在する。金融引き締めの弱気相場がついに米国市場にまで到達し、世界的なリスクオフになるか、そうなる前にFedが金融引き締めを止めるかである。
ここで考えてもらいたいのは、どちらになってもドル円には悪材料だということである。
まさにその通りの相場となった。今後も世界の金融市場の動向を事前にお伝えしてゆく。