前回の記事では世界最大のヘッジファンドであるBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏による今後の金融市場の見通しについて解説した。
今回はダリオ氏の同じ投稿から投資戦略一般について説明されている部分を取り上げたい。
ダリオ氏が重視するのは相場におけるパラダイムシフトである。ダリオ氏はジョージ・ソロス氏やわたしと同じくグローバルマクロ戦略の投資家だが、グローバルマクロ戦略の創始者であるソロス氏も、市場に大きな変化が起きるときこそがグローバルマクロ投資家の本領が発揮される時だと口癖のように言っていた。ダリオ氏の見解は次のようなものである。
グローバルマクロ投資家としての50年ほどの経験から、市場には10年ほどのパラダイムと呼ぶべき期間があり、そのあいだ市場はある一定の決まったトレンドを見せるということを発見した。パラダイム内では多くの人がそのトレンドを受け入れるが、やがてそのトレンドは行き過ぎとなり、パラダイムシフトが起きて前のパラダイムにおけるトレンドとは異なる新たなトレンドが発生する。
例えば2008年の金融危機である。リーマンショックはアメリカの不動産バブルに端を発するが、当時は永遠に続くように思われていた不動産価格の上昇も限界に達してパラダイムシフトが起きることとなった。
では、パラダイムシフトに対して投資家はどう対処すれば良いのか? ダリオ氏は次のように説明する。
ここで投資家が成功するためには2つの方法がある。1つはこれらのパラダイムを認識して、パラダイムシフトの波に上手く乗れるように戦略を立てること(BridgewaterではこれをPure Alphaファンドで行なっている)、もう1つはパラダイムシフトにおおむね影響されないバランスの取れたポートフォリオを構築すること(われわれはこれをAll Weatherファンドで行なっている)である。
そう、Bridgewaterには2つの戦略があり、それらは分けられている。伝統的なグローバルマクロのヘッジファンドでは前者の戦略が行われるのが一般的であり、変化を予測してその予測に沿ったポートフォリオを構築するということである。それはジョージ・ソロス氏が考案した方法である。しかしダリオ氏はこれにもう1つの戦略を追加して両方行うことを選択した。
1つ考えてみてほしいのは、読者のポートフォリオはどちらの戦略になっているだろうか? BridgewaterのAll Weather戦略についてはずっと考えていたのだが、わたしも真似をすることを本格的に検討してみるべきなのかもしれない。それは変化のタイミングを読む従来のグローバルマクロ戦略に加えてもう1つの異なる収入源となる。
また、ダリオ氏によれば、これらの2つの戦略はパラダイムシフトに対応するためだけではなく、パラダイム内における投資にも適用されるという。ダリオ氏は次のように言う。
10年ほど続く個々のパラダイムの中で、1-3年ほどの短い期間、市場がパラダイム自体の方向性に逆行する動きを見せることがある。投資家がこうした短期の変化に対応するためには、その変化が起きるタイミングを予測して売り買いを行う(例えば価格が下がれば買い、上がれば売る)か、逆行する短期トレンドに比較的影響されないバランスの取れたポートフォリオを持つ必要がある。最悪なのは市場の動きに従う(価格が下がれば売り、上がれば売る)ことである。
つまりは順張りは悪、逆張りは善ということである。ダリオ氏はPure Alpha戦略においては生粋の逆張り派であり、これについては筆者も賛同する。2018年の秋に日経平均が暴落前の最後の上昇を見せたとき、わたしが全力で売り向かったのは読者も周知の通りである。逆張りとはそういうことである。
ソロス氏がほとんど引退している今、ダリオ氏はグローバルマクロ戦略でもっとも著名な現役投資家となっている。ダリオ氏の今後の相場見通しについては前回の記事を参考にしてほしい。
また、今回の記事が興味深いと思った読者はダリオ氏の個人投資家に向けたアドバイスを纏めた記事も参考にしてほしい。今回の順張り、逆張りの話がより詳しく載っているからである。