株式市場は反発も流動性は足りていない

2018年後半の世界同時株安によって、アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)は金融引き締めの撤回を余儀なくされた。利上げは停止され、量的引き締めは9月までに終了ということになっている。

ここでは世界同時株安の前から予想していた通り、株価下落の理由はFedが金融引き締めによって金融市場から資金を吸い上げていたからである。

それで株価が暴落したのだが、Fedのパウエル議長がその姿勢を改めたことで株価はとりあえず上昇している。投資家にとっての問題は、パウエル議長の決定で市場に十分な量の資金が戻ってきているのかということである。

世界同時株安前の状況

思い出してほしいのは、世界同時株安が起こる前の状況である。アメリカの金融引き締めによって最初に起こったのは、アメリカの株式市場の暴落ではなく、新興国市場の暴落だった。世界市場全体から資金が引き上げられる時、最初に下落するのはよりリスクの高い資産クラスからだからである。

新興国市場から十分な資金が流出した後、次に下落したのはアメリカ以外の先進国の株式市場だった。日本の株式市場も10月の下落以前にJASDAQやマザーズなど日経平均以外の指標は下落を始めていた。ここではそれを世界同時株安の前に報じてある。

つまり、この時点で既に日経平均に採用されている一部の銘柄だけが押し上げられていた状況だったのである。

そしてそれはアメリカ市場でも例外ではなかった。世界同時株安の直前、先ず急落を開始したのは主要指標のS&P 500ではなく、小型株指数のRussell 2000だった。ここではそれを米国株の減速の兆しとして報じている。

そしてこの記事の直後、世界同時株安が起こったのである。

現在の状況

さて、この記事で論じたいのは、日経平均やS&P 500だけで株式市場を見るのではなく、その他のチャートも交えると世界市場はどうなのか、パウエル議長の方向転換によってすべてが良い方向に進んでいるのかということである。

先ずはすべての指標となるS&P 500のチャートを掲載しよう。

世界同時株安から回復し、史上最高値まで戻りつつある。

しかし問題は小型株指数Russell 2000の方である。チャートを掲載する。

世界同時株安からの反発が3月付近で止まっており、伸び悩んでいる。S&P 500のチャートと比べればよく分かるだろう。世界同時株安を事前に予測していた人間からすれば、この動きは世界同時株安の直前の状況を思い起こさせる。

一方で、すべての指標が世界同時株安直前のように動いているわけではない。例えば、2018年の始めから暴落を続けていた中国株は、その下落分を取り戻すかのように暴騰を続けている。

ただ、2018年の最高値からはまだ程遠いことは付け足しておこう。そしてここ数年予想を的中させ続けているガントラック氏が「株式市場の先行指標」と呼んだビットコイン価格も、まだ反発トレンドを続けている。

しかし昨年暴落した一部の新興国通貨からは、資金流出が再開しているようである。例えばトルコリラであり、以下はドルリラのチャートである。上方向がドル高リラ安となる。

次にアルゼンチン・ペソである。以下はドルペソのチャートである。

というわけで、少なくともパウエル議長の決定は世界市場全体を救うことが出来るほど市場に流動性を復活させたわけではなく、今の状況でも複数の歪みが確認出来るというわけである。

そしてその歪みは新興国市場だけではなく、アメリカの小型株市場にも確認出来る。今後これらの歪みが広がった場合、パウエル議長はどうすることを余儀なくされるだろうか。

間違いなく言えるのは、ドル円を下落させることなく世界同時株安に収拾をつけることは不可能であるということである。ドルと株価が両方上がる限り、その動きはまやかしであり、何処かの時点で修正されなければならない。

前回の記事の結びをもう一度引用しておこう。何も状況が変わっていないので、それ以上何も言うことがないのである。

十分な緩和が行われて株が上がり、ドル円が下がるか、十分な緩和が行われず株が下がり、ドル円も下がるか、どちらかなのである。市場はまだそのどちらも織り込んでいない。

今後の市場の展開としては、どちらかが必ず起こるだろう。それが起きない間は、市場は単に夢の中にいるのである。そして夢からはいずれ覚めなければならないだろう。