世界最大のヘッジファンドであるBridgewaterは世界同時株安が話題になった2018年の相場で14.6%(費用差し引き後)の利益を上げた。CNBC(原文英語)が伝えている。世界同時株安を受け、2018年のヘッジファンドの平均パフォーマンスが11月末の数値で2%の損失となるなかで、際立ったパフォーマンスと言えるだろう。
ダリオ氏の逆転劇
Brigdewaterの創業者レイ・ダリオ氏の相場観はここでも伝えてきた通りであり、それだけに14.6%の最終リターンには感慨深いものがある。ダリオ氏は2018年の初めに相場予想を大きく外しているからである。
ダリオ氏は2018年1月、ダボス会議で株式に大幅に強気な姿勢を示した。ここでも報じた通り、株式を保有しなければ「馬鹿を見る」という強い表現で株高予想を表明した。
市場はこれから大量の現金に溺れることになる。それは強力な緩和となり、市場は恐らく吹き上がることになるだろう。言葉を変えれば、現金をそのまま保有している投資家は馬鹿を見ることになる。
しかし、市場はこのダリオ氏の発言から1週間と経たない内に急落を始めることとなった。当時の米国株チャートを持ち出してみよう。
まさにダリオ氏の発言が頂点という冗談のような状況なのだが、このままでは終わらないのがダリオ氏の凄いところである。
ダリオ氏はこの急落を受けても一度は株高予想を維持した。論拠が弱いことは以下の記事でも指摘しているが、ダリオ氏の発言は次のようなものである。
それでもこうした大きな急落は、より長期的な観点で見れば取るに足らない調整に過ぎない。株価上昇が一旦停止すれば買いを入れようとする資金が大量に存在している。次に何が起こるかということが一番重要なのだ。
しかし、この発言から1週間と経たずに、ダリオ氏は自分の見解を修正することになる。株高予想は間違いだと認めたのである。
読者はこの転身をどう受け取っただろうか? 世界最高のヘッジファンドマネージャーでもこの程度だと落胆しただろうか? しかし筆者は、ダリオ氏のこの転身を賞賛したいのである。
何故か? それは、自分が間違いを犯したとき、それにいち早く気付くということは、投資家にとって非常に重要な能力の1つだからである。
もし相場観の間違いに市場よりも早く気付くことが出来たならば、その投資家は間違ったとしても損失を受けずに済む。これが投資家にとって一番望ましい状況である。しかし気付くのが遅れたとしても投資家には挽回の余地があるということをダリオ氏は示したのである。
自分の間違いを分析するダリオ氏
筆者が関心したのは自分の誤りに対するダリオ氏の誠実さである。ダリオ氏は自分の誤りを冷静かつ誠実に分析し、それを自分のブログに公開した。
われわれの計算によれば、一般的には企業利益の増加(株式にとってプラス)が金利上昇(資産価格全体にとってマイナス)よりも速い場合は差し引きで上げ相場になるはずである。
また投資家や企業などの預金に大量の現金が余っている場合(それは事実余っている)、株式市場は最後の一噴きをするはずであり、それは債券市場にとってマイナス(金利上昇)となるはずである。それは中央銀行に金融引き締めを促し、それが古典的な株式市場の天井となる。
これが10日前までわたしが想定していたシナリオである。
しかしダリオ氏はこの分析を撤回する。
しかし、最近の景気刺激、経済成長、賃金上昇などを見ると、状況はわたしが想定するよりも少し進んでいたらしい。こうしたニュースは当然ながら債券市場において金利を押し上げ、株価に影響することになった。
そしてダリオ氏は今後の状況について考察する。
株式市場の天井まであとどれくらいあるかということは、厳密には分からない。しかし債券市場の天井を過ぎたことは確かである。
金融市場には何年にもわたって楽観が積み上がっているため、われわれはこの混乱が何日かで終わるものだとは思っていない。恐らく、より大きな急落が来ることになるだろう。
そしてそれは事実そうなったのである。
ダリオ氏の言った通り、米国株の天井は2018年1月ではなく10月となった。そしてダリオ氏はそれに着々と備えてきたのだろう。ダリオ氏はその間、淡々とポジションを調整していたようである。
そして株式市場は10月に頂点を付け、そして2度目の世界同時株安へと突入した。
10月以降の下落開始後は、ダリオ氏には以前の困惑はなく、淡々と状況について語っている。ダリオ氏は自分の空売りポジションについては多くを語らなかったが、言葉を選びながら次のように述べていた。
われわれのポジションについて話すつもりはないが、(長い沈黙の後)少なくとも上方向のポジションは、あまり見込みがないし、そちらに賭けるのはリスクに見合っていない。
空売りには言及していない。しかしこの相場環境で利益を上げているということは、やはり上記の相場観に基づいて空売りをしていたと考えるのが妥当だろう。
結論
こうして世界最高のヘッジファンドマネージャーは復活したのである。今後、投資家にとって問題となるのはアメリカの中央銀行の対応であり、それが利下げになるのか、量的引き締めの停止になるのかで、市場の今後のシナリオは変わってくるだろう。
筆者の個人的な懸念は、ダリオ氏が金利の上下を重視していることである。筆者は金利ではなく量的引き締めが世界同時株安の主要な原因であると考えている。
その意味で、ここからは投資家が自分の相場観をより試される相場となるだろう。筆者はそれを楽しみにしている。
2018年の株式市場に関しては、ダリオ氏よりもわたしや債券投資家ガントラック氏の方が正確だったと言うべきだろうと思う。しかし、今後もそうあり続けるという保証はない。もしかしたら今後はダリオ氏の見解の方が正しいかもしれない。そのようにして、投資家は相場を通して自分の答え合わせをしてゆくのである。
いずれにしても、ダリオ氏の見事な復活劇を祝福したいと思う。投資家にとっては、自分が間違った時の対応が一番難しいのである。