さて、ドル円の下落については前日の記事で報じているが、そこから更に円高ドル安に転じているので補足しておこう。
原因として報じられているのはAppleの決算で、中国における売上の低迷から業績が下方修正されたことである。ただ、投資家にとっての一つの問題は、ドル円の急落の本質的な理由が本当にAppleの決算かどうかということである。
Apple決算でドル円急落
さて、少なくとも、本当の原因かどうかは別として、Appleの決算がきっかけとなって急落が起きたことは事実であるようである。ドル円の下落を報じた前日の記事の時点ではドル円は108円台後半だったが、Appleの決算発表の直後にドル円は更に下落した。一時104円台まで下落する急落ぶりである。
読者には周知の通り、かねてよりドル円を空売りしている投資家としては御の字である。
さて、この急落はAppleの中国における売上が期待外れだったことで、世界経済の減速懸念が再燃して下落に繋がったと言われている。果たしてこの説明が現在の下落相場の本質を突いているかどうかである。
先ず、Apple単体の売上が世界市場を左右するほどに重要ではないということは明らかである。巨大企業とはいえ一社であり、経済全体に与える状況はたかが知れている。
しかし一方で、世界経済の減速懸念が市場下落の原因だというのは正しくない。逆である。株式市場の下落が世界経済を減速させようとしているのである。
それは中国株のチャートを見れば明らかである。日本やアメリカでは自国の株安の話題で持ち切りだが、少なくともここの読者は新興国の株式市場がどうなっているかを忘れていないだろう。以下は上海総合指数のチャートである。
もう一年も下落相場が続いている。株式市場とは上場企業の資金調達元であり、それがこれほど下落しているのに実体経済に影響がない方がおかしい。しかし金融市場の下落が実体経済に影響を及ぼすまでにはタイムラグがあるので、ようやく中国経済にも悪影響が出始めたと考えるのが妥当だろう。では、世界同時株安の原因が何かと言えば、それは既に記事にしている。
したがって、世界経済の減速が原因で株安になっているという大手メディアの説は完全に誤りで、実際には株安が実体経済の減速を引き起こすのである。これはリーマンショックにおいて不動産市場のバブル崩壊が世界経済の景気後退に繋がったことと同じなのだが、メディアも金融関係者も誰も学ばないらしい。真実を知っているのはわたしとここの読者だけである。
再帰性相場
さて、一旦金融市場の暴落が実体経済に影響を及ぼし始めると、今度は株安が景気後退を引き起こし、景気後退が株安を引き起こすという連鎖的な下落相場へと移行してゆく。この実体経済と市場の相互作用を金融の世界では再帰性という。世界で最も著名なファンドマネージャー、ジョージ・ソロス氏のバブル崩壊理論である。再帰性理論については彼の著書『ソロスの錬金術』で詳しく説明されている。
Appleの中国の売上鈍化は恐らく、世界同時株安が再帰的なプロセスに入ったことを示す象徴的なニュースなのだろう。市場の再帰性については多くの識者が誤解しており、アメリカの中央銀行を統率するパウエル議長も経済が大丈夫だから市場も大丈夫だという誤った発言をしていた。
以下の記事ではパウエル議長の誤りを報じた上で再帰的バブル崩壊について説明しているので、ソロス氏の再帰性理論についてより学びたい読者は参考にしてほしい。世界同時株安より前、8月の記事である。ここではすべては事前に書いているのである。
新版 ソロスの錬金術