引き続き、機関投資家のポジションを開示するForm 13Fである。前回はドラッケンミラー氏のポートフォリオを紹介した。
今回は彼の師にあたる著名投資家ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementの開示情報を紹介する。
沈黙するForm 13F
先ず強調したいのは、以前より説明しているForm 13Fの「不気味な沈黙」が続いているということである。Form 13Fとは基本的に機関投資家の米国株買いポジションのみを開示するものであるので、機関投資家が相場に弱気の場合には、買い持ちのポジションが少なく、開示されるポートフォリオは閑散としていることになる。
今回のForm 13Fでは、開示されたポジションの合計金額は60億ドルであり、これは何百億ドルと言われるSoros Fund Managementの資金総額の恐らくは10%程度である。ソロス氏が米国株に強気の場合には開示に含まれる会持ちポジションはもっと多額になるはずなので、ソロス氏が株式に強気であるとは言い難く、この「閑散」が不気味であるとここでは報じている。
さて、Form 13Fでは基本的に買いポジションしか開示されないが、買いでも実質的には空売りの方向に作用するポジションがあり、これは開示に含まれている。それが何かと言えば、プット・オプションの買いである。プット・オプションとは株価が下落した場合に利益の出る取引だが、形式的にはオプションを「買う」ことになるためForm 13Fで開示される。
そして今回、この閑散とした開示ポートフォリオの中で最も金額が大きいのが、米国の株価指数であるS&P 500のETFに対するプット・オプションなのである。因みに株価上昇に賭けるコール・オプションも同時に買われているが、こちらの方が少額となっている。
- SPDR S&P 500 ETFプット: 6億2606万ドル
- SPDR S&P 500 ETFコール: 1億6955万ドル
因みにこのポジションは3月末の開示にも存在したが、金額が3倍になっている。
プット(下落方向に賭ける)とコール(上昇方向に賭ける)を同時に買い、そしてプットの金額の方が大きいというポジションの意味は、個人投資家にはなかなか分かりにくいかもしれないが、端的に説明すれば、「ボラティリティ上昇と株価下落の両方に賭けるポジション」だということになる。
つまり、ソロス氏は株式市場が荒れ、かつ下落することを予想していることになる。S&P 500は2月の世界同時株安の後、以下のように推移している。
結論
勿論、これらのポジションもSoros Fund Managementの資産総額から見れば小さなポジションである。しかし、彼が米国株に強気ならばもっと買いポジションの開示があるはずであり、株式市場が荒れないと思っているのであれば、オプションの買いを行うことはないだろうということを指摘しておきたい。
そして何より、ソロス氏は2月の世界同時株安の後、「われわれは次の大きな金融危機に向かっているのかもしれない」というコメントを残している。ここから予想出来ることは、おそらくソロス氏の今の相場観は、筆者のものとほぼ同じだということである。
また、ソロス氏の他に、著名投資家ではジェイコブ・ロスチャイルド氏も慎重な姿勢を示していたことを思い出したい。
それでも、下落相場とは大半の投資家がそれと気づかないうちに進行するものである。ここの記事も、著名投資家の言葉も、実際に下落が決定的なものとなるまでは顧みられないだろう。しかし起こってからでは遅いのである。