ここでは世界市場の様々なチャートを掲載しているが、こういうニュースの方が読者に相場の臨場感を伝えやすいかもしれない。
通貨危機に陥るトルコ
アメリカの金融引き締めと関税政策によって新興国の通貨や株式が暴落しているのは伝えている通りである。
その中でも一番下落が大きいのがトルコであり、トルコリラは年始から40%以上も暴落している。以下はドルリラのチャートであり、上方向がドル高リラ安である。
下落している新興国通貨はトルコリラだけではないが、ここ数週間の下落にはアメリカとの対立激化がある。
2016年にトルコで起きたクーデター未遂事件に関わった容疑で、トルコ政府がトルコ在住のアメリカ人牧師を拘束し続けていることに対し、アメリカが8月1日にトルコの閣僚2名に経済制裁を課したほか、10日にはトランプ大統領がトルコ産の鉄鋼とアルミニウムに対する関税を2倍すると表明、トルコリラは一気に下落した。
これに対し困ったのがトルコのエルドアン大統領である。通貨安を止めるには利上げしかないが、来年の選挙を気にしているエルドアン氏は利上げで経済を冷やすことができない。
結果、大統領は最後の手段に訴えかけたようである。ロイターによれば、エルドアン氏は演説のなかでこれを「国家間の戦い」だとして、トルコ国民に対し「もしドルや金を枕の下に入れているのなら、銀行でリラに両替すべきだ」「ドルがわれわれの道を阻むことはできない。心配無用だ」と語ったが、この発言を受けてリラは下げ幅を拡大した。心配無用ではなかったようである。
そもそもこうした発言で通貨安を食い止めるというのは無理筋であり、大統領が国民にそのようなことを推奨しなければならない時点で、トルコ経済の状況は非常に深刻であり、しかもトルコ政府に打つ手がない、ということを証明しているようなものである。だからこの発言を受け、投資家は安心して更にリラを売ったのである。
リラとともに下落するロシアルーブル
また、トルコリラと同じように最近下落したのが、これまで何とか耐えていたロシアルーブルである。ドルルーブルのチャートは次のようになっている。
原因は同じくアメリカによる経済制裁である。ロシアに対するイギリスのスパイとして働いていたロシア人の元諜報員がイギリスで毒殺未遂にあった事件で、ロシアが関与したものとアメリカが断定して経済制裁を行なった。
ルーブルに関しては、4月の下落のあとよく耐えていたと考えたい。アメリカの金融引き締めという新興国市場に最悪の条件さえなければ、ロシアの株式や債券は筆者も投資をしたいほどなのである。しかしやはり、アメリカの金融引き締めという状況のなかで新興国に投資をするのは至難の業だろう。
結論
さて、必ずしも新興国市場に関わっていない投資家にとっても、こうした動きを解釈することは重要だということを指摘しておきたい。では、どういう解釈が可能だろうか?
第一の解釈は、トルコとロシアはアメリカの経済制裁で売られているだけで、経済制裁を受けていない国の株価や為替相場には関係がないというものである。
第二の解釈は、新興国市場が売られている本当の理由はアメリカの金融引き締めで、経済制裁のニュースは下落のきっかけに過ぎないというものである。そうであれば、やはりこうした動きは世界市場全体への警鐘ということになり、日本の投資家にも大きな意味を持つことになる。
筆者の解釈は、アメリカの金融引き締めによる新興国市場の長期の下落トレンドに、経済制裁によって拍車がかかっているというものである。つまり、このトレンドは経済制裁を受けているトルコやロシアだけの話ではない。アメリカの金融引き締めでは世界中の市場から資金が引き揚げられているのだから、新興国市場から資金が流出した次の段階では、日本やアメリカなどの先進国の株価がターゲットになるだろう。
一番の証拠は、やはり日本の小型株指数であるJASDAQやマザーズが、新興国株式と連動して既に大幅に下落していることである。
しかもこれらの下落はただ同時に下落しているだけでなく、新興国株式の上下動にかなりの程度連動している。JASDAQと新興国が連動する理由は、アメリカの経済制裁や貿易戦争などではなく、世界中の市場に影響するアメリカの金融引き締め以外にないのである。
また、世界中から資金が引き揚げられているもう1つの証拠には、ドル円の奇妙な動きがある。2018年のドル円の動きの何が奇妙かが分からない読者は、以下の記事をもう一度熟読して欲しい。
市場におけるすべての状況証拠が、リスクオフだと筆者に叫んでいる。読者はこうした動きをどう解釈するだろうか。