新興国とコモディティ相場における暴落については既に書いたので、今度は基本に戻り金利の話をしたい。日本の個人投資家がどれだけアメリカの金利をチェックしているかは分からないが、アメリカの金利は世界中のすべての資産価格を決めているのである。当然、ドル円や日本株もアメリカの金利によって上下する。
2月の急落を引き起こした長期金利
さて、先ずは2018年2月の世界同時株安を思い出して欲しい。以下は2018年前半のアメリカの株価指数S&P 500のチャートである。
今年の始めは市場を完全な楽観が支配していた時期である。1月にはダボスで世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏がダボスで株高予想を表明した。
しかし株価はその数週間後に急落し、ダリオ氏は株高予想を撤回、空売りを積み上げることになる。読者はこの下落の原因を覚えているだろうか? 原因は長期金利が急騰(8/5誤植を訂正)したことである。
これも2018年前半のチャートである。年始には2.4%程度だった長期金利だが、世界同時株安の直前には株価と長期金利が同時に上がっていた。長期金利は一気に2.9%まで上昇した。
長期金利の上昇が何故問題かと言えば、長期金利とは10年物国債の金利のことであり、投資家は株式と国債を天秤にかけて投資対象を選ぶからである。
米国債は基本的に無リスク資産と考えられているが、もし国債の金利が低すぎれば、投資家は社債や株式などよりリスクの高い資産への投資を考えるだろう。しかし国債の金利が上がり、リスクを取らなくても国債の金利収入で十分ということになれば、投資家は株式に投資していた資金を債券に移すことを考えることになる。
これは国債よりリスクの高いすべての資産に言えることであるので、国債の金利、特に投資の対象となりやすい10年物国債の金利はすべての市場の資産価格を動かすということになる。今年の2月には市場がそれを懸念したことで米国株が急落し、米国株が急落すれば日本株や欧州株なども下落するということになったわけである。
再び上昇している長期金利
さて、その長期金利は世界同時株安の後、上記の理屈によって資金が株式から債券へと流れたので、5月には再び金利が下がり(債券価格上昇は金利低下を意味する)、2.7%台まで急落していた。以下はその当時から現在までのチャートだが、5月の急落に注目してもらいたい。
イタリアの政治的混乱などで騒がれ、株価が再び急落した時期だが、この当時のことは以下の記事に書いてある。
因みにこの記事では、当時かなり鋭角に急落していた長期金利に対して以下の予想をし、しっかり当てている。落ちるナイフを掴むのは非常に気持ちの良いトレードである。
この程度の株式市場の下落でアメリカの金融引き締めが止まることはない。2.7%台の長期金利は低すぎると言うべきだろう。
筆者ならばこの状況でオプションを売る。金利がこれ以上下がらなければ(つまり債券価格がこれ以上上がらなければ)利益の出る取引である。ボラティリティの高い状況ではオプション価格は高くなるので、高値で売れるというわけである。
さて、問題は長期金利が2.7%台まで急落した後、そのまま下落を続けず再び3%まで上昇してきているということである。そしてこれは2月に世界同時株安を引き起こした時点よりも高い水準である。
結論
これをどう解釈するかだが、筆者の見方は当然ながら、まだ何も終わっていないということである。
それでも米国株は史上最高値からそれほど離れておらず、市場はいまだ楽観していると言えるだろう。S&P 500のチャートを掲載したい。
しかし、2月には長期金利が2.8%で世界の株式市場が大荒れになったにもかかわらず、3.0%近辺で何も起こらないというのは理論上は不合理である。
しかし、経験ある投資家ならば、これはバブルの末期としてはむしろ合理的だと言うだろう。新興国やゴールドや銅が既に急落していることとも一致する。
何度か引用しているが、著名投資家のジョージ・ソロス氏が著書『ソロスの錬金術』で述べている言葉を思い出したい。
強気相場は小爆発にときおり見舞われながら続いていく。そうしているうちに、だれも小爆発を恐れなくなる。このときこそ、大暴落の条件が整ったときなのである。
何度も言うが、その時は近づいている。そして一番大荒れになる市場は日本市場となるだろう。