ECBの量的緩和までの経緯と、金融市場の反応を2014年1月から総ざらいする

2015年1月22日にECB(欧州中央銀行)が量的緩和を発表したことにより、ユーロ圏の金融市場は新たな緩和相場で賑わっている。個人投資家にはユーロ圏の量的緩和が最近のニュースだと考えている人もいるかもしれないが、機関投資家のなかでは2013年頃から既に話題になっていた事柄であり、その頃からフォローしてきた身としては、ようやく実現したという感想である。

事実、市場が量的緩和を織り込み始めたのは2014年の1月であり、そこから債券、株式、為替など、色々なものが順番に上昇・下落してきた。金融緩和が起こるときに市場はどう反応してゆくのかという説明も兼ねて、この1年間の相場の動きを時系列順に見ていきたい。

2014年1月、ドイツ国債が上昇を始める

一番最初に反応したのはドイツ国債であった。背景にあったのは下落してゆくユーロ圏のインフレ率と高止まりした失業率である。南欧で問題となっていた高失業率の結果、失業者が比較的経済の堅調なドイツへと流れ込み、健全であったはずのドイツの労働市場を供給過剰へと導きつつあった。結果、賃金は上がらず、需要の減少からインフレ率が下がり続けた。この背景については以前より記事にしている。一番端的に書いてあるのは、恐らく5月のGecina (EURONEXT:GFC)の紹介記事だろう。

この当時、ECBはユーロ圏のインフレ率に問題はないという発言を繰り返しており、緩和を示唆するような言動は何も無かったが、いずれECBが何らかの対応を迫られると考えた市場参加者は、緩和で一番恩恵を受けるドイツ国債に買いを入れはじめたのである。

一方で、ユーロはその間も上昇を続けていた。驚くべきことに、インフレ率が低下し、失業率が問題となっているにも拘らず、当時のECBはマネタリーベースを縮小し続けており、日米の金融緩和の影響もありユーロは高値を更新し続け、ユーロ圏の輸出業は圧迫されていた。今となっては当時の金融政策が異常であったことは誰もが認めるところだが、政治的な理由でそれを認めることの出来なかった人が大勢居たということである。投資家にとっては、政策転換のタイミングのみが問題であった。

ドラギ総裁の緩和発言でユーロが下落を始める

ユーロは2014年5月に下落を始めた。ドラギ総裁が5月の会合で初めて金融緩和の可能性に言及したからである。しかし、この時に検討されていたのはマイナス金利など量的緩和以外の手段であり、6月の会合で実際にマイナス金利とTLTRO(局所的長期資金供給オペ)が発表されたが、インフレ率も失業率も改善されることはなかった。投資家は量的緩和が必要であるとの姿勢を崩さず、ユーロは更に下がり続け、ドイツ国債は高値を更新し続けた。

不動産はドイツのものから、次にフランス

ドイツの長期金利が下がり始めてから不動産株が上がり始めるまでにはやや時間があった。織り込みが数ヶ月遅れるのは欧州市場の特徴であるが、欧州の市場はあくまで効率的であり、機関投資家の取引する銘柄で織り込みが1年以上遅れることはほとんどない。実際、ドイツの大手不動産会社Deutsche Wohnen (XETRA:DWNI、Google Finance)やPatrizia Immobilien  (XETRA:P1Z、Google Finance)などの株式は10月から本格的な上昇を開始した。

経済成長の速度の差から、やはりドイツの不動産はフランスなどのものよりも早く買われ始め、5月から買い推奨をしてきたパリのGecina(紹介記事Google Finance)が上昇基調に入ったのは量的緩和が開始される直前の12月であった。それでもやはり早期の買いは正解であり、株価は紹介時の€97.3から20%上昇したことになる。量的緩和の規模から考えてまだ上がるとは推測しているが、投資家はそろそろ下記の新しい記事で紹介した銘柄に移る頃合いだろう。特に、フランクフルト国際空港を保有するFraportはいまだ量的緩和を織り込んでいない。

結論と教訓、未来への示唆

上記で言及した資産クラス、とりわけドイツ国債とドイツ不動産株は、本来ならばより同時期に買われるべき銘柄であり、市場が効率的ではないということを示している。市場は情報を即時に織り込むのではなく、投資家が気付いたものから順番に買われてゆくのである。

したがって、投資していた銘柄が状況を織り込んで上がったときには、未だ織り込んでいない別の銘柄に資金を移すことで同じトレンドに何度も乗ることができる。その間も最初の銘柄は上がり続けるかもしれないが、一般的には後の銘柄のほうが利幅は大きく、リスクは少ない。現状で言えば、旬の過ぎたユーロ売りよりも不動産株買いの方が報われるということである。

もう一つ重要な教訓がある。今回、ユーロは押し目らしい押し目もなく下落した。これは円安のときと比べても急激であり、迷いのない一直線の下落であった。これは投資家が以前よりも量的緩和の市場への影響を強く信じていることを意味しており、にもかかわらず量的緩和の終了を深刻に受け止めていない米国の株式市場には矛盾があるということになる。この件については以前記事にした。この考察は非常に重要であるので、是非読んで頂きたい。