2月2日から始まったアメリカ発の世界同時株安で、著名投資家のポジション動向が話題となっているが、市場が急落してから弱気に転換した世界最大のヘッジファンドBridgewaterが先週報じられた欧州株空売りのポジションを更に60%以上増額した。Bloomberg(原文英語)などが伝えている。
レイ・ダリオ氏の弱気転換
Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏は、市場下落が始まる前には株式市場に非常に強気なコメントを発表していた。
あらゆる場所に現金が積み上がっている。投資家の現金だけではなく、銀行や企業も大量の現金を抱えている。だから市場はこれから大量の現金に溺れることになる。それは強力な緩和となり、市場は恐らく吹き上がることになるだろう。言葉を変えれば、現金をそのまま保有している投資家は馬鹿を見ることになる。
しかし市場急落が始まると意見を変えたようであり、先週8日の時点には131億ドルの欧州株空売りを行っていたことが報じられた。
そして今回の報道によれば、ダリオ氏は欧州株空売りを更に増やし、15日時点で217億ドルとしたようである。Bloombergによれば、ダリオ氏の欧州株空売りは1月からで、同時に日本株の空売りも始めたという。代わりに1月時点では米国株のポジションを大幅に増やしていたというが、それはダリオ氏が株式市場に強気だった頃のことである。恐らくだが、今では米国株のポジションも減らしているのだろう。
それにしても空売りの増額は物凄いスピードである。半月の間に強気から弱気へと相場観を真逆に転換し、2兆円近い空売りポジション増額を行ったことになる。
個人投資家と違い、ヘッジファンドが運用する規模のポジションはボタン1つで増額出来るものではない。2兆円を一気に売れば、自分の売り注文だけで市場が暴落してしまうからである。何日かに分けたとしても大変な量だが、ダリオ氏はなりふり構わず欧州株を売っている。
世界同時株安は一旦反発
さて、Bridgewaterは市場急落が始まってから株を大量に売り始めた訳だが、その後株式市場がどうなったかと言えば、一旦反発している。以下は米国株のチャートである。
ダリオ氏が空売りを大量に増やしたら市場が反発した、ということになれば冗談のようになってしまうが、どうなるだろうか。筆者の予想は、少なくとも株価急落の原因となった長期金利の上昇はこのまま続くというものである。
年末のダリオ氏のポートフォリオ
因みに、年末時点でのBridgewaterの米国個別株ポジションが開示されたので、そちらもレビューしておきたい。年末と言えば、1月にダボスでダリオ氏が「現金を保有していると馬鹿を見る」と株式市場に強気発言した少し前ということになる。
これまでに報じている通り、Bridgewaterのメインのポジションは新興国株ETFだった。以下は9月末時点での開示を報じた記事である。
では、その新興国株ETFはどうなったのか? 株高予想で増やしたのかと思ったが、実際にはこれらのポジションは減っている。
- Vanguard: 38億ドル -> 31億ドル
- iShares: 29億ドル -> 15億ドル
そしてその他米国個別株についても大して増額されていない。
開示は個別株だけに関するもので、先物などについては開示されていないので、株価先物などで米国株を買い持ちにしていたのかもしれないが、いずれにしても今はそれらのポジションも精算されている可能性が高いだろう。
結論
現時点で株式市場は反発しているが、ダリオ氏の弱気転換は吉と出るだろうか? そう言えばダリオ氏は過去に個人投資家へのアドバイスとしてこのような発言をしていた。
ニュースに振り回されるだけでも悪いが、最悪なのは市場の反応に振り回されることだ。
最悪の考え方とは、「この資産はこれまで良いパフォーマンスを上げているから、この資産はこれからも良い投資なのだ」と考えることだ。価格がこれまで上がったというのは多分、より割高になったということだ。ある資産が途方もなく割高になり、それを理由にあなたがこれは素晴らしい投資対象だと考えるとすればどうだろう。
逆に大きく下がった資産があったとすれば、その資産のバリューが上がったことを意味するかもしれない。
過去に反応し、未来を考えないこと、それが個人投資家の最大の問題だ。
少し笑みを浮かべてしまうが、市場が急落したことを理由に弱気転換したダリオ氏の運命はどうなるだろう。楽しみにお手並みを拝見しよう。筆者は市場に振り回されず、淡々とジャンク債空売りを継続する。