ドル円急騰、金価格下落の理由と今後の相場見通し

ドルが急騰した。一時110円近辺まで落ち込んでいたドル円は113円台半ばまで上昇し、数カ月の間1,260ドルの下値を割ることのなかった金価格は、レンジを下離れて1240ドル台で推移している。この動きについて、世界市場の様々なチャートを交えながら解説したい。

ドル円急騰、金価格急落

先ずはチャートを見てゆこう。以下がドル円のチャートである。

次が金価格である。こちらは夏の水準まで落ち込んでいる。

ここ数日の間に何か特別な材料が出たわけではない。むしろ、ドルは10月辺りから方向性を見失い続けており、上下に動いてはいたが、どちらに突き抜けることもなかった。その延長としてこの動きとなったと言う方が正しいだろう。

ドル上昇の理由と背景

その背景には2つのグループの投資家が存在していた。1つは先進国経済の長期停滞トレンドによって、アメリカの金融引き締めが結局は緩和の側に引き戻されるという、ここ数年ヘッジファンドに浸透していた長期停滞論をそのまま現在の相場にも当てはめ続けるグループ、もう1つは、アメリカが現に強力な金融引き締めを行なっているのだから、ドルが上昇するはずだと見る、中央銀行を甘く見ないグループである。

どちらの論法にもある程度の論拠があり、どちらの側に属するファンドマネージャーも相手の論法をある程度認めていたと言えるだろう。その結果がドルのレンジ相場なのだが、少なくとも金価格は下方向に行くことを決意したように見える。

ただ、ドル円やドル建て金価格などのドル相場についてのみ見るならば、最近まで方向性が定まっていなかったように見えるが、世界の金融市場の一部では数ヶ月前から金利上昇を警戒する動きが見受けられた。それは何か? 以前少し言及したが、銀行株の上昇である。Citigroup (NYSE:C)のチャートを掲載しよう。

Citiに限らず銀行株は軒並み9月から上昇している。銀行は基本的には金利収入のビジネスなので、銀行株が上昇するのは長期金利の上昇(より厳密には長短金利差拡大)を市場が予感する場合である。

因みに銀行株の上昇はアメリカに限ったことではない。例えば隣国カナダ最大の銀行Royal Bank of Canada (TSE:RY)も同じ動きとなっている。

更に挙げるならば、日本の読者には馴染みのある三菱UFJフィナンシャル・グループ (TYO:8306)である。世界市場の動向に投資をするのに、日本株を使うという手もあるのである。

したがって、ドル円や金価格が金融引き締め側に動いたというのではなく、こうした銀行株などの値動きも総合して、少なくとも現状では金融市場全体が金融引き締め側に動いていると考えるべきである。

下げ方の弱いジャンク債

一方で、筆者が空売りを宣言したアメリカのジャンク債は、金価格などに比べて下げ方が弱いと言える。以下はジャンク債ETFのチャートである。

金価格が急落したにもかかわらず、むしろ少し反発している。しかしこのジャンク債の値動きこそが今後のドル相場を左右することになる。

ドル相場見通し

先ず、ドル円や金価格などのドル相場が連動しているのは長期金利(10年物国債の金利)である。Fed(連邦準備制度)が行なっているバランスシート縮小とは、国債の保有額を減らす金融引き締め政策なので、ジャンク債や社債よりも市場に放出される国債から先ず引き締めに反応したとすれば、それは確かに自然なことである。

しかし、長期的にもそうなるかと言えば、それはそうとは限らない。国債の(実質)金利が上昇していることを見て、ジャンク債や、そして株式を今保有している投資家がどう思うかということが中長期的には問題となる。安全な米国債を保有して高い金利が得られるならば、よりリスクの高いジャンク債や株式などを保有する必要はない、と判断すれば、ジャンク債や米国株が売られ、上昇した金利の分だけドル相場が元に戻るというシナリオが現実化する可能性がある。

要するに、Fedが市場から引き上げた資金の分のしわ寄せが、最終的にどの市場にどの程度出るのかということが問題なのである。そしてこのテーマこそが今後のドル相場の行く末を決定するだろう。

結論

以前の記事において、金融引き締めに賭けるためのトレードをドルの買いやジャンク債の空売りを含めて複数提示したが、今回の記事ではより最新のチャートを踏まえてそれぞれのトレードを確認した形となる。

ジャンク債について言えば、金利が上昇し続けるにもかかわらず、ジャンク債が売られないということは有り得ない。だから筆者はジャンク債の空売りを続けている。

とはいえ、ドル買いやゴールド空売り、ジャンク債空売り、銀行株の買いなどの中でどれが一番魅力的かということは、勿論その時の価格の水準による。したがって現在ゴールドを空売りしている投資家は、ジャンク債などまだ下落の少ない資産の空売りへと資金を移すことを考えても良いかもしれないし、逆にジャンク債が下り過ぎた場合には他の市場に移ることを考えるなど、臨機応変に対応すべきだろう。その辺りは価格次第である。

しかし、確実に言えるのは、ドルをトレードしている投資家も、ドル円のチャートだけ見ていては対局を見失うということである。やはり読者各自が様々な市場を自分でフォローしてゆくことが望ましいと言えるが、ここでも出来る限り様々なチャートを取り上げてゆくつもりである。