ガントラック氏: ドルは下落へ、コモディティは買い、ジャンク債は売り

トランプ相場の初期を正確に予想した著名債券投資家のジェフリー・ガントラック氏がドル安を予想している。Reuters(原文英語)、CNBC(原文英語)などが伝えている。

ドルは下落へ、コモディティは買い

Fed(連邦準備制度)のイエレン議長が利上げとバランスシート縮小を開始し、それらの金融引き締め政策を次期議長のパウエル氏が引き継ごうとしている中で、ガントラック氏は以下のようなアドバイスを投資家に贈る。

もしコモディティを買おうと思ったことがあるならば、恐らく今買うべきだ。

その根拠はガントラック氏のドル相場の予想にある。

ドル指数の次の大きな動きは下落になるだろう。Fedは現在主張しているほどには金融引き締めを出来ないだろうからだ。そして弱いドルはコモディティ価格や新興国市場にとってプラスになる。

ガントラック氏はドルの下落を予想している。そして主にドル建てで取引されている貴金属や農作物などのコモディティは、ドルの価値が薄まればその分ドル建てでの価格が上昇することになる。また新興国市場の買いというのは世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏の相場観と一致している。

2018年ドル相場の予想

中央銀行が金融引き締めをしているにもかかわらず、それが続かないという理由でドル安に賭けるというのは、以前に利上げが中断されると予想してわたしが金相場の大底を買い上がった2015年末の状況に似ている。

当時、2016年内に利上げが4回あると予想していた金融市場に対し、その規模の利上げは不可能と読んだわたしは金融引き締め撤回で恩恵を受けるゴールドを買い込んで利益を上げた。ガントラック氏は現在の相場に当時の状況の再現を見ているわけである。

一方で、わたしはここ最近、金融引き締め方向に賭けることを主張している。以下の記事にその纏めがある。

その根拠は、少なくとも今後半年はアメリカのGDPが金融引き締めを撤回させるほどの減速には見舞われないという以下の記事の分析である。内容を少し引用しよう。

現在の2.26%という数字からFedに金融引き締めの撤回をさせるまでの減速に至るまでには、少なくとも2四半期、あるいは3四半期程度の時間経過が必要だということである。

これは要するに、Fedは少なくとも半年ほど金融引き締めを続けるだろうという意味であり、その間ドルは上昇圧力に晒されるだろう。

そして、非常に面白いことに、わたしと逆の主張をしているように見えるガントラック氏が、経済成長についてわたしと同じことを言っているのである。

少なくとも6ヶ月以内にアメリカ経済が景気後退に陥る可能性は低いだろう。

この違いをどう考えるかである。これについては結論の部分で語るとしたい。

低金利トレンドにも例外あり

ガントラック氏は全体としてはドル安、金利下落方向に動くと予想する一方で、すべての資産クラスがその方向に動くと予想しているわけではない。ガントラック氏が相対的にではあるが金利高方向に動くと予想している資産クラスがある。それはアメリカの社債、その中でも特に倒産の可能性が高い企業の発行する高リスクなジャンク債である。ガントラック氏は次のように述べている。

アメリカの社債のパフォーマンスが国債を上回る時期は終わりを迎えつつある。量的緩和が社債やジャンク債などのリスク資産を支えていたからだ。

因みにわたしが上記の2018年の相場予想の記事で推奨したのがジャンク債の空売りである。これについては別に記事を書いている。

興味深い一致だが、ガントラック氏の発言は今週火曜日のもので、これまで紹介したわたしの過去の記事はすべてそれよりも古いので、真似をしたわけではない。アメリカ経済を論理的に眺めれば、同じような結論に至るということだろう。

結論

根底にある経済分析が一致しているにもかかわらず、わたしとガントラック氏の論調は真逆である。わたしは金融引き締め方向のシナリオがメインで、ガントラック氏はそれが逆流するシナリオを全面に押し出している。

この差異は、奇しくも一致した「これから少なくとも6ヶ月」をどう見るかという一点にかかっている。わたしの意見では、これから6ヶ月もFedが金融引き締めを撤回しないならば、6ヶ月という時間は金融市場に影響が出ないには長すぎるというものである。一方、ガントラック氏は、6ヶ月で逆流するのだから現時点でもうその方向に賭けても良いだろうというものである。どちらのニュアンスで受け取るべきかは読者の投資方針次第だろう。

一方で、どちらの場合も、金融引き締めがいつピークに達するかを見極めることは重要である。この点においては3年物国債などの短期国債を監視しておく必要がある。以下のように書いた通りである。

短期国債の金利に見る金融引き締めの限界とは、3年物国債の金利が2.00%から2.20%程度まで上がった時ということになるだろう。この場合、10年物国債の金利(長期金利)は3%を超える可能性が高く、アメリカ経済はそのような高金利には耐えられないだろう。

一方、ガントラック氏は次のように述べている。

2年物国債と10年物国債の金利差は注視する価値のあるポイントに来ている。多くの人が長短金利差の縮小を正当化する口実を探している事実は、アメリカ経済が金融引き締めの序盤にいるのではなく、中盤にいるということを示している。

繰り返しになるが、わたしが彼の真似をしたわけでもなければ、彼がわたしの真似をしたわけでもない。今後も世界の著名ファンドマネージャー級の情報を淡々と提供してゆく。