米国株: Tesla (NASDAQ:TSLA)はバブルなのか?

米国株の中でもいわゆるハイテク株がバブルだと言われ始めてから久しいが、バブルと言われている銘柄でも質は色々であり、玉石混交である。株価は高いものの将来性のあるものの代表格はネットショッピング大手のAmazon.com (NASDAQ:AMZN)であり、逆に価値の極めて怪しいものの代表格は、電気自動車を販売するTesla (NASDAQ)だろう。

グロース株の評価方法

そもそも、巷で言われているハイテク株がバブルだと言うのは、単にP/E(株価収益率)が高いという理由でそう言われている場合が多い。しかしP/Eが100を超えていても割安と言える銘柄もあれば、P/Eが10でも割高な銘柄もある。特にAmazon.comやTeslaのようなグロース株の場合、株価の割高割安というのは単に現在のP/Eで見るものではないからである。

株価収益率とは、株価を一株当たり利益で割ったもので、その会社が投資家にとっての投資分(株価)の利益をこれから稼ぎ出すには何年かかるかを示したものである。P/Eが10ならば10年、100ならば100年ということになる。

  • 株価収益率(P/E) = 株価 / 一株当たり純利益

しかし、この計算式の分母は現在の純利益であり、グロース株の場合にはこの純利益が指数関数的に増えてゆくため、今の純利益で割った指標は将来を予想する上での役には立たない。

ではどうすれば良いか? すべてのグロース株に使える方法は将来の一株当たり純利益を概算するという方法だが、自動車産業のように大手になれば利益率や成長率が会社によってそれほど変わらない業界の場合、より簡単な方法がある。時価総額の比較である。

Teslaの時価総額

さて、先ず現状の自動車産業を俯瞰してみたい。以下はやや古い2016年のデータだが、自動車の出荷台数世界トップ5は以下のようになっている。

  • 第1位: トヨタ自動車(日本)
  • 第2位: Volkswagen(ドイツ)
  • 第3位: ヒュンダイ・キア(韓国)
  • 第4位: General Motors(米国)
  • 第5位: Ford(米国)

4位と5位にアメリカの企業であるGeneral Motors (NYSE:GM)とFord (NYSE:F)があるので、これとTeslaを比べてみたい。株式市場での評価はどうなっているだろうか? 時価総額の比較は以下の通りである。

  • General Motors: 608億ドル
  • Ford: 500億ドル
  • Tesla: 515億ドル

何とTeslaの時価総額は世界第4位のFordを上回っている。これはつまり、将来的にTeslaがFordより巨大な会社になるということが市場で織り込まれているという意味である。因みに売上高を比べると以下のようになる。数字は2017年度の予想値である。

  • General Motors: 1,449億ドル
  • Ford: 1,433億ドル
  • Tesla: 117億ドル

Teslaと他の2社は桁が一つ違っている。これが現状におけるTeslaと大手の規模の差である。

TeslaはFordに追いつくのか?

さて、市場の織り込みは、TeslaはいずれFordの規模まで成長するというものである。確かにTeslaの売上高は指数関数的に増加している。例えば、2017年度の売上高予想は、2016年度の売上よりも67%増加している。これが十分な加速度であるかどうかである。

仮に、毎年売上高が67%上昇するとして、Teslaの売上高117億ドルがFordの1,433億ドルに到達するには何年かかるだろうか? 投資家であれば、この程度の計算は出来てほしいものである。計算式は対数を使用して以下のようになる。

  • log_1.67(1,433億ドル / 117億ドル) = 4.89年

ほぼ5年かかる計算となる。しかし実際には、グロース株の成長率は規模が大きくなるにつれて鈍化してゆくので、今後5年間67%の成長を毎年続けるということは非現実的である。つまりは、実際には5年よりも多くの年月が掛かることになる。

結論

以上の考察から判明したことは、Tesla株が現在のバリュエーションを維持するためには、今後7-8年程度の間、Fordを抜いて世界第4位の自動車メーカーになるという市場の信頼を揺るがせずに維持しなければならないことになる。

しかし実際には無理だろう。そもそもTeslaが本当にFordの規模になれるのかどうかさえ実際には怪しい。Teslaは自動車愛好家にも訴求効果のある電気自動車を作ることに秀でているかもしれないが、大衆車を世界中で販売し、生産ラインを効率化してゆくというFordやトヨタ自動車のモデルとはそれは完全に別ものであり、筆者の視点から見れば、そのためにはTeslaは完全に別会社に生まれ変わらなければならなくなる。

したがってTeslaは売りである。以下の投資戦略で述べたリスク資産の売りの一貫として組み込むのも面白いだろう。

Fordの買いと組み合わせてロングショート戦略とする方法もある。その辺りはポートフォリオ全体との兼ね合いだろう。

しかし、それよりも読者には、P/Eで測ることの出来ないグロース株を評価する方法の参考として役に立てば、何より幸いである。