イエレン議長、ワシントンでの講演で量的緩和の必要性を強調

Fed(連邦準備制度)のイエレン議長の任期が2018年2月に迫る中、トランプ大統領による次期議長の選定が最終段階に進んでいる。大統領はアジア訪問に出発する11月3日(米国時間)より前に次期議長を決定する見込みとされている。

次期議長候補は既に5人に絞られており、その中にはイエレン現議長も含まれている。大統領は最後の選定に臨んでいるが、その中でイエレン氏は10月20日にワシントンで講演を行い、量的緩和などこれまでのFedの金融政策への理解を訴えた。Reuters(原文英語)によれば、イエレン議長は講演の中で次のように発言している。

非伝統的な金融政策をもう一度使う準備を常にしておかなければならない。目立った金融危機や不況がないにもかかわらず、短期金利を下限まで下げなければならなくなる時がいつか来る可能性は残念ながら高い。

トランプ大統領は5人の候補者への面会を終えている。イエレン氏はトランプ氏と面会した次の日にもホワイトハウスを訪れ、もう一人の候補者であるゲイリー・コーン国家経済会議委員長と昼食を共にしたと報じられた(Reuters、原文英語)。トランプ大統領が候補者の最終選定に入る中での連日のホワイトハウス訪問は、次期議長選定と関係があるのではないかと噂されている。

次期議長候補イエレン氏

これまでも報じている通り、イエレン氏は少なくとも5人の候補者の中では最も優れた中央銀行家である。一時優勢と報じられたウォルシュ元理事などはリーマン・ショック時に金融危機の規模を最後まで誤って認識していた人物なのだが、最終段階で議論されているのはスタンフォード大学のテイラー教授、パウエル現理事、そしてイエレン現議長の3人のようであり、ウォルシュ氏が外れたことは投資家にとってもアメリカ経済にとっても良いことだろう。

候補者の中では誰がもっとも適任かということが明白であるにもかかわらず、トランプ大統領が即断出来ない理由は、銀行への規制緩和というトランプ政権および与党共和党の目的にある。

Fedは金融政策を決定するだけでなく、銀行への監督という仕事も請け負っている。イエレン議長は少なくとも規制緩和を積極的に推進する人物ではなく、このことに特に共和党内の保守派が反発しているという。

しかし一方で、恐らくはこの点について話し合ったであろうトランプ大統領との面会では感触が良かったと報じられており、また、10月4日の講演では銀行への規制について以下のような発言も行なっている。

多くの地方銀行が金融危機に繋がったようなハイリスクのビジネスを避けている現状を考慮し、金融危機以来の銀行への規制と監査が、適切で過度な負荷のかからないものとなるように努力してゆく。

トランプ大統領の政策に配慮したかのようなコメントである。

イエレン議長の再任については、トランプ相場を的確に予想した債券投資家のガントラック氏は次のように述べていた。

彼女は議長職を続けたいとは思わないだろうし、大統領もそれを望まないだろう。

しかし、イエレン氏の積極的なホワイトハウス訪問や、次期議長の決定を意識したと思われる講演内容などを見ると、イエレン氏は再任されたがっているのかもしれない。

結論

共和党の保守派が推す人物はテイラー教授である。テイラー氏は金融政策をFedの裁量ではなく方程式によって決めるべきだとしたテイラー・ルールで知られており、Fedの権限を制限しようとする共和党的な候補であると言える。

一方で、トランプ大統領は支持率確保のため低金利による株価の下支えも望んでおり、その目的にもっとも適任なのはイエレン議長である。

トランプ氏は恐らく、各候補の資質の他に、共和党保守派との調整も行いながら最終選定を行なっていることだろう。その折衷案が、イエレン議長の政策に似通った主張を持ちながら、規制緩和への理解もあるパウエル理事というわけである。しかし中央銀行家としての手腕はイエレン氏の方が手慣れたものだろう。

いずれにしてもあと1週間ほどで決定すると思われる。相場への影響は、最もハト派な結果でもイエレン議長の再任ということになり、その意味するところは利上げとバランスシート縮小の継続である。