北朝鮮のミサイルを巡って、ドル円がなかなか激しい動きをしている。一度108円台まで下落したが、その後110円台まで戻している。
さらなる下落を心配している投資家も居るかと思うので、もう一度ドル円とアメリカの金融政策をめぐる状況を纏めておきたい。
ドル円の相場見通し
結論から言えば、ここ数日のドル円の急落から想定されるようなドルの大幅下落というシナリオは可能性が薄いと言えるだろう。より正確には、ドル下落となる今後のシナリオを想定することは難しいと言い換えても良いだろう。
勿論、2018年2月のイエレン議長の任期終了後のFed(連邦準備制度)の新議長がイエレン議長の再任になるのか、元Goldman Sachsのコモディティトレーダーであるゲイリー・コーン氏になるのか、あるいは全く別の人物になるのかによって将来のアメリカの金融政策が異なるという話はある。しかしどれほどハト派の議長だとしても、現在の相場を眺めてみれば、新議長が誰かということはドル円を大きく押し下げる要素にはならないということが分かるのである。
十分ハト派な相場織り込み
それは何故か? 相場の現状を整理してみよう。アメリカの債券市場や金利先物市場は以下のようになっている。
- 長期金利は2.14%
- 政策金利は1.00%
- 2018年末までの利上げ回数の織り込みは1回程度
この現状で、ハト派の新議長がどれだけ市場をこれ以上ハト派に出来るかを考えてみてもらいたい。長期金利と政策金利のギャップは既に狭まっており、アメリカ経済が景気後退に陥る懸念でもない限り、長期金利が更に大幅に政策金利に近付いてゆく可能性は考えづらい。
以下は米国GDPの速報値を取り上げた記事で少し古いが、金利が今よりも高かった第2四半期でアメリカの経済成長は悪くない数字だったのだから、金利がより低い状態でアメリカ経済が景気後退になるというシナリオは論理的に無理があるだろう。
では、新議長が短期金利の方を操作する可能性はどうだろうか? もしハト派の新議長になれば、これ以上利上げを行わないと宣言することはあるだろう。しかしそれでも現在の相場の織り込みから利上げ一回分ハト派に動くだけであり、ドル円への影響は限られている。利下げに動く可能性については、アメリカ経済が減速しない限りハト派の議長といえども合理性がない。そして金利が上がらない限りアメリカ経済は減速しないだろう。
結論
従って、ドル円がこれ以上大きく押し下げられる可能性についてはかなり低いはずである。北朝鮮の地政学リスクは市場に短期的な影響を及ぼすとしても、アメリカ経済に長期的なマイナスとなる可能性はほぼ皆無である。
一方で、上昇方向に動く可能性は、量的引き締めがどのようなペースで進んでゆくかによる。少なくとも、Fedは量的引き締めを平穏に開始してしまうまでは市場を刺激する発言を避けるだろうから、引き締めのペースについて更にタカ派に出る可能性があるとすればそれは9月のFOMC会合以降でだろう。
いずれにせよ、以下の記事で表明した通り、今後の金融相場は市場が一方向に動くことを予想するというよりは、金利のレンジを予想する相場になるだろう。
この新たな局面では、金利はGDP成長率が上昇し過ぎず下落し過ぎない丁度良いレンジを大きく外れない水準で推移することが予想される。つまり、マネタリーベース縮小という量的引き締めによってもたらされる金融市場の新たなトレンドは、金利のレンジ相場ということになる。
そして、それはドル円のレンジを予想する相場と言い換えることも出来る。そして筆者の予想するドル円のレンジは、少なくともここから大きく下がることはない、である。
より具体的に今後の見通しにも言及しておこう。9月以降Fedがタカ派に出る可能性については五分五分と見ている。ドルは上がるかもしれないし、横ばいかもしれない。だから個人的には、7月の FOMC会合の時に表明した通り、どちらでも利益になるように、ドルを買うのではなく、プット・オプションを売っているのである。
プット・オプションの売りは、価格が一定水準より下がらない限り、上昇でも横ばいでも利益の出る取引である。
筆者がオプションを売り始めた時、ドル円は111円程度だったが、ドル円は徐々にその水準に戻りつつある。オプションの売りは下落リスクへの保険を売るようなものであるから、ドル円が行って帰ってくるだけで時間経過分保険料が手に入るのである。
市場はやや荒れているが、あまり気にせず自分のポジションを続けている。他に取っているポジションは、原油価格のオプションの売りとロシア国債の買いである。