米国株が下落している。下落幅こそまだそれほどでもないが、S&P 500の日足チャートを見れば、それが急落と呼ぶに相応しい落ち方であることが分かる。
ここの読者であればこの場面で思い出されるのが、これまでトランプ相場を的確に予想し続けている著名債券投資家のガントラック氏が米国株下落を予想していたことである。
ガントラック氏の米国株下落予想
ガントラック氏の予想は7月末のものであり、この急落が続くことになれば、タイミングとしては完璧ということになる。
ガントラック氏の予想の詳細をもう一度思い出してみよう。ガントラック氏はトランプ相場の減退で低迷するアメリカの長期金利に着目していた。
銅価格/金価格比率の上昇は、インフレをもたらす何かが世界経済で進行中だということを示唆している可能性が高い。それはつまり、金利が上方向に突き抜けることを示唆している。そして金利上昇は株式市場のボラティリティを跳ね上げる材料となる。
ガントラック氏はこの相場観を元に米国の株価指数S&P 500のプットオプションを購入したという。プットオプションは、株価が下落すれば利益が出るが、逆に上昇しても損失を負わず、その代わりにどの場合にも一定の保険料を支払うという金融商品である。
ガントラック氏が単純な空売りではなくプットオプションを購入したことには理由がある。ガントラック氏は株式市場のボラティリティ(変動幅)が著しく低下していたことにも着目しており、次のように述べていた。
株式市場は弱気の季節にあるが、それよりも重要なのは、われわれがVIX(ボラティリティ指数)が非常に非常に低い水準にあると考えていることだ。だから、S&Pのプットを買うことは、ボラティリティ上昇に賭けていることを意味している。
もう少し説明をすると、投資家がプットオプションを購入するとき、その価格には保険料が含まれており、時間経過とともにそのポジションの価格のうち、保険料分が低下してゆく形で買い方は保険料を支払うことになるのだが、この保険料は市場のボラティリティが大きくなればなるほど高くなる。
したがって、オプションを保有している最中にボラティリティが大きくなれば、オプションの価格が上昇し、オプションの保有者の利益になるということである。そして米国株市場のボラティリティはと言えば、ガントラック氏がプットオプションを購入した7月末から跳ね上がった。ガントラック氏の予想通りである。
結論
結果だけを見れば、ガントラック氏のプットオプションの買いは、タイミングも何もかも完璧に成功した投資のようである。
しかしこの投資結果には一つ問題がある。株価急落とボラティリティ上昇の理由が金利上昇ではなかったことである。
このように、アメリカの長期金利は7月末からむしろ低下している。トランプ政権の経済政策の実現可能性が疑われている上に、株安自体が資金を安全資産としての債券市場に押しやり、金利を低下させている展開となっている。
ガントラック氏の予想は、結果としては当たったが、彼の想定していたシナリオとは齟齬が生じていることになる。ガントラック氏の見落としている何かが市場にあるのである。
それでも米国株は下落した。この下落が2008年からの量的緩和バブルすべてを崩壊させるものなのか、2016年末からのトランプ相場の調整であるのかについては、わたしやレイ・ダリオ氏の意見を参考にしてほしい。