7月のFOMC会合結果はバランスシート縮小の早期開始を強調するものだったが、市場はそれを信じず、会合後アメリカの長期金利は低下し、結果としてドルは下落した。
上記の記事ではこの市場の動きに同意しない旨を書いたが、債券王と呼ばれる二人の債券投資家、ジェフリー・ガントラック氏とビル・グロス氏もFOMC会合の結果発表前後にコメントを出しており、両氏とも金利高を予想しているようである。
銅/金価格比率と長期金利
先ず、ガントラック氏はTwitter(原文英語)でFOMC会合の結果発表直前に以下のようにコメントした。
銅価格と金価格の比率は今年の高値付近を推移している。長期金利が1.50%まで下がると信じている勢力にとっては良いニュースではない。
銅は建設などに使われ、世界経済が好調であれば価格が上昇する一方、金は安全資産として経済が軟調のときに買われる傾向がある。したがって、銅価格を金価格で割ったものは、市場が世界経済に強気か弱気かを示す指標になるのである。銅価格は以下のように急上昇している。
金価格は以下。
銅/金価格比率が上昇しているということは、市場は世界経済に強気ということである。経済に強気であるにもかかわらず、長期金利が上昇しないのでは理屈に合わないと、ガントラック氏は主張しているのである。
イールドカーブ急傾斜化
さて、もう一人の債券王ビル・グロス氏も、CNBCのインタビュー(原文英語)において、ガントラック氏ほどタカ派ではないが長期金利の上昇を予想している。
要するに利上げから一旦手を引くということだろう。恐らく12月にさえ利上げは行われないのではないか。そして利上げからバランスシート縮小に重心を移したいと考えているのだろう。イールドカーブをより急傾斜にしたいからだ。
イールドカーブとは、国債の金利を期限の順番に並べたものであり、従ってイールドカーブが急であるとは、短期と長期の国債の金利差が大きい状態を指す。
2017年の状態について言えば、アメリカでは利上げによって短期金利が上昇する一方で、低インフレと低金利を期待する投資家によって長期金利は下落してきた。
グロス氏は同時に、バランスシート縮小開始そのものは、市場に具体的な影響を与えるよりはむしろ象徴的な意味を持つものであり、債券価格の急落など大袈裟なものは心配しなくとも良いと言う。バランスシート縮小の規模が最初は非常に小規模となるだろうことが理由である。
これは正しいだろう。イエレン議長の目指すところは自分の任期終了までに先ず縮小プログラムを開始してしまうことであり、その後のことは後任の人物(イエレン氏かどうかはまだ決まっていない)によって決定されるだろうからである。
つまり、アメリカの長期金利(そしてドル)の見通しを端的に言えば、「方向は決まっているが、そちらに強く動くわけではない」ということである。FOMC会合結果について書いた記事ではドル円のオプションを売っていると書いたが、現物ではなくオプションを取引しているのはそこに理由がある。
また、筆者は個人的にもイールドカーブの急傾斜化を予想しているが、その理由は金融政策だけではない。これについてもすぐに書くことになるだろう。
単に上がるものを買い、下がるものを売れば良かった量的緩和相場とは違い、これからはレンジの見極めが非常に重要になる新たな相場へと突入する。この新たなトレンドについては複数の記事にわたってこれから纏めてゆく予定であるが、先ずはレイ・ダリオ氏の相場見通しを参考にしながら待っていてもらいたい。