引き続き、ジョージ・ソロス氏とクォンタム・ファンドを設立したことで知られる著名投資家のジム・ロジャーズ氏のインタビュー(Forbes、原文英語)である。今回はロジャーズ氏が以前推奨していたアメリカのジャンク債空売りに関する部分を取り上げたい。
ジャンク債空売り
ジャンク債とは、破綻懸念のある信用の低い企業が発行する利回りの高い債券である。現在、アメリカで主にジャンク債を発行しているのはシェール関連企業であり、原油価格の下落によってこれらの企業は経営破綻の懸念がある。
ロジャーズ氏は以前、このジャンク債を空売りすることを推奨していたのだが、当時からジャンク債は下落するどころか上昇しているので、インタビューの司会者が次のような質問をしたのである。
2015年12月に、あなたはSJBというティッカーシンボルのハイイールド債空売りETFを推奨しました。わたしは普段空売りは行わないのですが、その時はあなたの推奨が理にかなっていると思ったのです。しかし、このポジションはわたしが買った時から10%ほど下落しています。多くの視聴者もこの銘柄に興味を持っていると思うので、このポジションについての今の意見を聞かせてください。
確かに、このSJBという銘柄(ProShares Short High Yield)は下落(空売りETFなのでジャンク債の価格上昇を意味する)している。チャートは以下である。
下落していると言うか、ロジャーズ氏の推奨時がほぼ天井である。発言のタイミングだけを見れば清々しいほどの外しようなのだが、それでもロジャーズ氏の発言と分析には価値があるのである。
世界最悪の短期トレーダー
ロジャーズ氏は「世界最悪の短期トレーダー」を自称している。クォンタム・ファンドではロジャーズ氏がアナリスト、ソロス氏がトレーダーの役割だったため、ファンド引退後ソロス氏なしでは投資のタイミングが測れないのである。同じインタビューで彼は次のように述べている。
非常に割安で、前向きな変化が起こっているようなものを見つけた時には、わたしは成功してきた。しかしわたしは大抵投資するのが早すぎる。だから何年もホールドすることになる。
ということで、今回もそういうことであるらしいと言える。本題のジャンク債については、司会者の質問に対してロジャーズ氏は次のように弁明した。
市場のタイミングについてはわたしに聞かないでくれ。わたしがこのポジションを持っているのは、ジャンク債市場がいつか暴落すると知っているからだが、今のところはあなたと一緒に損失を垂れ流している。
「タイミングについては聞かないでくれ」というのは、ロジャーズ氏の発言をフォローしている読者にとってはもはや彼の常套句のように聞こえるだろう。
また、ロジャーズ氏は長期ホールドしていられる秘訣について、過度なレバレッジを掛けないことの大切さに言及する。自虐も忘れていない。
信用取引で莫大な資金を借り入れて少数の銘柄に集中投資するような人々で、かつ投資があまり上手くない人々は、投資で空中分解する運命にある。あるいはわたしの投資のタイミングがあまりに絶望的なために、わたしが空中分解するのが先かもしれない。
ジャンク債空売り
しかしながら、ジャンク債については債券投資の世界で最も著名な二人、グロス氏とガントラック氏もバブル崩壊の可能性を指摘している。ジャンク債空売り自体は正しいアイディアなのである。
したがって、ロジャーズ氏自身も言う通り、問題はバブル崩壊のタイミングということになる。
タイミングの分からないロジャーズ氏に助け舟を出しておけば、ジャンク債が崩壊するのは、トランプ政権がインフラ投資に本腰を入れ、国債の発行額を増やし、Fed(連邦準備制度)が金融引き締めを強行する場合である。
これは時期としては2017年末から2018年に掛けてのことであり、トランプ政権とFedの動向によって前後することもあるだろう。この辺りについては逐次報じてゆく。
また、数値的な閾値が何処かと言えば、ガントラック氏の言うように長期金利が3%に差し掛かる辺りだろうと思う。長期金利はジャンク債にとってもドルにとっても株式市場にとっても重要な指標なのである。
結論
ジャンク債については、タイミングを見れば外したように見えるかもしれないが、ロジャーズ氏は間違いなく世界トップクラスのアナリストである。
しかし、投資を行うためには、リサーチとトレーディングの両方を行わなければならない。このインタビューでは、クォンタム・ファンドでトレードを担当していたソロス氏について語っている部分もあり、そこでは優れたトレーダーになるための条件についての彼の意見も述べられている。引き続きその部分も取り上げようと思っている。