米国のマネタリーベース縮小は株式市場の大暴落を引き起こす

米国の中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)はバランスシートの縮小計画を発表した。2008年以降株式市場を大いに押し上げた量的緩和がバランスシートの拡大であったことを考えれば、バランスシート縮小は逆方向に同様のインパクトを持つものである。

Fedのバランスシート縮小

量的緩和とは中央銀行が国債などの金融資産を買い入れることによって資産価格を吊り上げ、金融緩和を行うことである。買い入れられた資産は中央銀行のバランスシートに計上されるため、量的緩和は中央銀行のバランスシート拡大と表現される。

ただ、買い入れられた債券は無期限に中央銀行の保有となるわけではない。債券には期限があるため、満期になった債券には原本が払い戻される。債券自体はなくなるため、放っておけば中央銀行保有の債券は次々に満期になり、債券保有量は次第に減少してゆく。

これを避けるために、Fedは現状では満期になった債券分の資金を再投資し、新たに債券を買い入れることでバランスシートの規模を維持している。現在Fedが検討しているのは、この再投資を中止することで債券保有額を徐々に減らしてゆこうということである。

Fedは現在、大量の国債とモーゲージ債(不動産担保証券)を保有しているが、これを具体的にはどう減らしてゆくのか? Fedによるバランスシート縮小計画の概要は2017年6月のFOMC会合において示されており、その資料によれば縮小額は以下のようになる。

  • 国債については、縮小額は当初月額60億ドルとし、その後3ヶ月ごとに60億ドル増額してゆき、最終的に月額300億ドルとする。
  • モーゲージ債については、縮小額は当初月額40億ドルとし、その後3ヶ月ごとに40億ドル増額してゆくことで、最終的に月額200億ドルとする。

つまり、減少額は徐々に増加することになるが、最終的には合計で月額500億ドル、つまり年額で6,000億ドルのバランスシート縮小となる。

米国のマネタリーベース

この6,000億ドルという数字がどれくらいの規模かを考えるためには、米国のマネタリーベースのチャートを見れば良い。量的緩和によって2008年以降、マネタリーベースが4倍にも膨らんだ様子が見て取れる。

年額で6,000億ドルという数字は、およそ6年ほどでマネタリーベースを元の水準まで戻すことが出来る速度である。量的緩和によるバランスシート拡大が2008年から2014年まで6年掛かったことを考えれば、ほぼ同じ速度でバランスシートを縮小するということになる。

因みに最終的にどの水準まで減らすのかということについては、Fedは明言を避けている。市場が受け入れられる限り縮小しようと考えているのだろう。しかし市場が受け入れられなくなる時というのは、つまりは市場が暴落する時である。

金融市場への影響

量的緩和が長期金利や株式市場に大きな緩和的影響を与えたことを認めるならば、同じ速度でのバランスシート縮小が同じ衝撃の金融引き締めとなってドル高と株安を促すことは否定しようがない。アメリカ経済が既に減速を始めている現状においては、Fedのバランスシート縮小は実体経済にとっても金融市場にとっても最後の一撃となるだろう。

しかし、以前説明した通り、イエレン議長はGDP統計を読み誤っている。一時的な企業による投資の好調を長期的なものと勘違いし、実体経済を過信しているのである。

イエレン議長はいずれ気付くことになるだろう。しかし問題は、手遅れになる前に気付くのか、手遅れになってから気付くのかということである。因みにリーマン・ショック時においては、イエレン議長(当時サンフランシスコ連銀総裁)が「現在の金融政策は緩和的であり適当」と宣言したすぐ後に市場は暴落した。以下の記事で当時の状況を詳述しているが、正しい金利水準を設定するという点において、彼女は一度失敗しているのである。

結論

リーマン・ショックの時も、暴落に続いてFedは金利を下げることを余儀なくされた。イエレン議長が気付くのに遅れるならば、今回も同じようになるだろう。

いつ気付くかということは問題ではあるが、いずれにしても米国の金融政策は今後引き締め側に向かってから緩和に逆戻りすることになる。少なくとも、逆戻りしなければ国債市場も株式市場も大暴落である。

これを踏まえた上でアメリカの長期金利やドル相場、株式市場が2018年に向けてどのように推移するかについては、これから述べてゆきたいと思っている。来年に向けての投資戦略を考え始める良い時期であり、良い機会だろう。