レイ・ダリオ氏: 米国株は過去に2回、25年間株価が上がらなかった下落相場を経験している

今回の記事では、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏の著書から、米国株の歴史的パフォーマンスについて解説している部分を紹介したい。

株式の長期下落相場

日経平均がバブル崩壊後20年以上回復しなかったことはよく知られている。

結局、この下落相場が止まったのは2013年のアベノミクスによる量的緩和以降ということになる。何が株価を動かしてるのか、非常に分かりやすいチャートである。

さて、ここの読者なら知っているだろうが、多くの個人投資家に恐らく知られていない事実がある。過去100年ほどで、米国株にも同じような時期が2度あったということである。

1929年世界恐慌

ダリオ氏の著書からその2度の下げ相場を紹介しよう。まずは『巨大債務危機を理解する』で解説されている1929年の世界恐慌と、そこから始まる米国株の長期下落相場である。

世界恐慌が1929年だったことは広く知られているが、恐慌とは景気後退が長く続くことであり、その道のりは長かった。

始まりはアメリカの株価バブルだった。しかし単にそれだけでは、世界的な経済危機に陥るほどではなかった。しかしそれがイギリスやドイツの通貨危機に発展すると、1931年には遂に米国債からの資金逃避が発生し、米国株と米国債が両方売られるアメリカの金融危機へと繋がってゆく。

そしてそれに対する中央銀行の対応が景気後退に拍車をかけることになる。Fed(連邦準備制度)はドルからの資金流出を抑えるため利上げを決行するが、利上げは株式にも米国債にもマイナスである。

ダリオ氏は次のように書いている。

1931年10月9日にニューヨーク連銀が投資家の資金を引き寄せるために金利を1.5%から2.5%に上げた。それは引き締めに他ならなかった。恐慌において、それは良い結果には繋がらない。

結局、こういう場面ではすべてを救うことはできない。ドルを救えば米国株と米国債が死に、米国株と米国債を助ければドルが死んでインフレになる。

こういうどうしようもない状況下で、米国株はドルと物価安定のために犠牲となった。そして世界恐慌前にバブルで4倍以上に上がっていた米国株は、長期下落相場へと突入してゆく。

ダリオ氏は次のように述べている。

ダウ平均は1929年9月3日に381ドルの天井を記録した。そしてその後25年間その水準を回復することはなかった。

当時のダウ平均のチャートは次のようになっている。

1970年代の物価高騰

さて、米国株のもう1つの長期下落相場は1970年代の物価高騰時代である。

コロナ後のインフレに関連して、ここでは当時についての記事をたくさん書いてきたので、ここの読者にはお馴染みの時代であるはずだ。

ダリオ氏は、この時期については新著『国家はどのようにして一文無しになるのか?』(仮訳)で説明している。

その一部がブログで公開されているが、この物価高騰時代の原因は1960年代から始まっている。

ダリオ氏は次のように解説している。

1960年代前半、アメリカの貨幣と信用のサイクルは短期的な過熱トレンドにあり、それは米国の市場と経済にとって素晴らしい時期だった。

しかし1965年から1966年にインフレ率が3.8%まで上がると、Fedが金融引き締めを行い、長短金利差は1929年以来初めて逆転し、1969年から1970年の景気後退へと繋がった。

当時のアメリカ経済は借金と紙幣印刷で過熱していたが、当時のアメリカは金本位制度で、印刷したドル紙幣にはゴールドの裏付けがなければならないと定められていた。

その後ドル紙幣に対し十分なゴールドの貯蓄が米国政府にないことが明らかになると、アメリカが金本位制度を廃止した1971年のニクソンショックへと繋がってゆく。

結局、アメリカでは紙幣印刷と、その後のインフレを抑えるための利上げによって、バブルとその崩壊を繰り返しながらインフレ率は上昇し、最終的には1980年のポール・ボルカー議長による強烈な金融引き締めによるインフレ退治に繋がってゆく。

こうした状況は米国株にとっては最悪だった。多くの人が誤解しているが、株価はインフレに弱い。金利が上がるからである。

そして長期的な下落となった米国株と米国債の代わりに大幅に上昇したのが、ゴールドとシルバーだった。

ダリオ氏は次のように続けている。

1969年にS&P 500の株価が天井となり、その後インフレ調整後の数字で25年間回復しなかった状況は、このような状況下で生まれたのである。

長期に渡る株式と債券の劣悪なパフォーマンスと、ゴールドやその他のインフレヘッジ資産の素晴らしいパフォーマンスは、主に債務に対応するために紙幣印刷と通貨の価値下落が必要だったことから生じたものだ。

結論

ということで、今回は過去100年ほどで米国株に2度も存在している長期の下落相場について解説した。

両方に共通しているのは、米国株と米国債がともに下落していることである。

そしてそれはまさに2025年の相場でも起きていることである。

結局、株価の長期的動向を決めるのは金利だということが分かる。

日本株も上に掲載した通り、バブル崩壊後にそれ以上の利下げが出来なくなっていた間は下落相場を続け、アベノミクスでの量的緩和の開始によって上昇に転じている。

今回紹介した米国株の2回の長期下落相場は、ともに金利上昇(国債下落)の相場でもある。

そして過去40年米国株が上がり続けていることは、過去40年金利が下がり続けてきたからであって、それは結局株価は金利で決まるということを証明する歴史的事実に他ならないのである。そして、同じような金利低下はもう起こらない。

米国株と米国債がともに下がる相場で投資家は何をすれば良いのだろうか。今回紹介した2度の下落相場では、ゴールドが急騰している。ここの記事では去年からずっとゴールドの魅力について書き続けてきた。

だから、過去数十年株価が上がり続けたというだけの理由で株式を買ってはならない。今、世界経済がどういう長期サイクルの中にあるかを考えなければならないのである。

ダリオ氏は新著の方でこう書いている。

こうした時期があることは、あらゆる種類の金融市場で投資ができなければならないこと、そのために必要な知識を持っていなければならないことをわたしに教えてくれた。

また、それはそうした相場を経験したことがないために、長期のサイクルを無視し、単に自分の経験だけに基づいて株式のような資産をただ買い持ちにすることが最良の投資だと考えている投資家たちとまったく異なる考え方をわたしに与えてくれた。

投資家に出来ることは、まずは1929年と1970年代の相場をきちんと勉強することからだろう。

特に1929年の世界恐慌とその後の株価下落については、2025年に入ってますます重要性が増していると感じている。

ダリオ氏の著書『巨大債務危機を理解する』で詳しく解説されているので、未読の人は参考にしてもらいたい。


巨大債務危機を理解する