サマーズ氏: 今後数ヶ月で米国はドルと米国株と米国債がすべて下落する発展途上国型の金融危機に陥る可能性

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Peterson Instituteによる動画配信でトランプ政権の関税政策と最近の株価下落について語っている。

株価下落とトランプ関税

今年3月、サマーズ氏はトランプ政権の政策を見て、株価が下落するのも当然だと述べていた。

そしてその後、米国株は更に大きく下落することになった。S&P 500のチャートは次のようになっている。

そしてここの記事では何度も言及しているが、この株価暴落で一番マズいのは、株価下落の最中に米国債が下落し、金利が急上昇したことである。

アメリカの長期金利は以下のように推移している。

金利の急上昇は株価の反発前に起こっている。それでトランプ政権は関税を延期し、株価が反発したのである。

発展途上国化するアメリカの金融市場

さて、この状況を見たサマーズ氏は、次のように言っている。

トランプ政権の関税政策は金融危機を引き起こすかもしれない。

その理由は、やはり国債の値動きの変化である。サマーズ氏は次のように続けている、

これは予想ではなく既に起こったことだが、トランプ政権のこうした政策が、世界情勢の雰囲気を変え、アメリカの金融市場が伝統的な経済の中心地から発展途上国の金融市場へと変化する原因となった。

前者では株価が下がれば保険を求めて国債が買われるが、後者では株価が下がると金利が上がり、通貨も下がって人々の恐怖を呼ぶ。

これは発展途上国によくある古典的な状況だ。発展途上国が金融危機になればこの状況に陥る。

先進国の金融市場では、株価が下落した時には国債は買われる。例えば2008年のリーマンショックでも、株価下落時には安全資産と呼ばれるゴールドでさえ下落した一方で、米国債だけは買われている。

これが先進国の市場における普通の動きであり、これまでの他の金融市場でも例外ではなかった。

だが株式と国債が両方売られるのが普通である市場がある。発展途上国の金融市場である。ここでは何度も言っているが、発展途上国の市場でしか起きないことが、米国株と米国債に起こっている。投資家はその重要性を認識する必要がある。

米国市場の見通し

アメリカにとって更に悪いのは、その例外的な動きが数々の問題に対処する前から既に起こっているということである。

2025年は米国債が大量に償還される年であり、米国政府は借り換えのために大量の米国債を発行しなければならない。その大量発行が米国債を下落させるのではないかという問題も、まだ未解決である。

スコット・ベッセント財務長官は、ジャネット・イエレン前財務長官が大きく減らした長期国債の発行量を、まだ通常の水準に戻せていない。

更に、トランプ政権から外国への米国債の利払いを停止するような話が出ている中で、コロナ以後加速してきた世界各国のドル離れが更に加速する懸念もあるが、それもこれからの話である。

サマーズ氏は次のように述べている。

しかもこの状況は、外国の中央銀行や政府関係機関がドル資産を投げ売りするかもしれないという十分起こり得る問題が表面化する前に起こった。

米国株と米国債が同時に下落する金融危機

これらの問題は今後どういう状況に発展するのか。サマーズ氏は次のように述べている。

恐らく50%よりは低いだろうが、確実に10%よりは高い確率で、今後数ヶ月の間にアメリカがリズ・トラス危機に陥るリスクがある。

リズ・トラス氏はイギリスの元首相で、コロナ禍で財政を考えない大規模なばら撒き政策を行おうとした結果、ポンドと英国株と英国債を暴落させ、早期退陣を余儀なくされた人物である。

アメリカがリズ・トラス化する可能性については、以下の記事でジョニー・ヘイコック氏も言及していた。

「先進国は債務を増やし続けても問題ない」という神話が、明らかに崩れ始めている。これらの徴候は、アメリカやイギリスなどの先進国が、いわば発展途上国化し始めていることを示している。

結論

これまでアメリカで米国株と米国債が同時に下落するようなことがあっただろうか。実はあったのである。それは1929年の世界恐慌に続く1931年、長く続く恐慌でアメリカの財政が危うくなった年で、この時米国株と米国債は同時に下落している。

1929年の世界恐慌と、その後の米国債の暴落については、レイ・ダリオ氏が歴史上の債務危機を解説した名著『巨大債務危機を理解する』において詳しく解説されている。

ダリオ氏はこの本の該当箇所で次のように述べている。

1931年9月、世界恐慌が始まってから初めて、米国債は安全資産ではなくなった。

米国株と米国債は当時と同じ道を辿るのだろうか。奇しくもエゴン・フォン・グライアーツ氏が世界恐慌のあと何十年も米国株は回復しなかったことを例に出して、米国株はこれから同じ状況に陥ると予想している。

株式と国債の同時下落という異常事態を甘く見てはならない。それだけは事前に書いておく。投資家はこれからの状況に備えて1931年の事例を勉強しておくべきである。


巨大債務危機を理解する