Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社配信動画で金相場と銀相場の長期見通しについて語っている。
株安と金価格の高騰
株価が下落する中、金価格が高騰している。金価格のチャートは次のようになっている。

物凄い上がり方である。年始からもう20%以上上がっている。
金価格上昇の原因
金価格が上昇している理由は、ドルからの資金逃避である。
始まりはウクライナ戦争だった。アメリカがロシアに対してドル資産の凍結を行なったのみならず、対ロシア経済制裁に加わらない無関係の国に対してドルを使った経済制裁をちらつかせたため、ドルを持っていればアメリカの都合で資産凍結されると考えたBRICS諸国や中東諸国の中央銀行が、米国債を売ってゴールドを買い始めた。
その辺りの事情はジョニー・ヘイコック氏が以下の記事で詳しく説明している。
この去年10月のヘイコック氏の記事の時点でゴールドはとんでもなく上がっていたのだが、そこから更に20%以上上がったわけである。
このドルからゴールドへの資金逃避は、最近の株価下落で加速したように見える。株価が下がり、米国債が下がり、ゴールドだけが上がっているのだから、何処から何処へ資金が流出しているのかは明らかである。
金価格の動向予想
ゴールドは何処まで上がるのか。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
わたしの予想では、このゴールドの価格の変化は恒久的なものだ。恒久的というのは、少なくとも数十年ということだ。
ゴールドは永遠に上がり続けるのだろうか? 例えば筆者は、過去40年の米国株の上昇が過去40年の金利低下によって支えられてきたことを指摘し、金利低下がなくなった今、長期的な米国株の上昇も有り得ないということを指摘しておいた。
株式は永遠に上がり続けないのに、ゴールドは永遠に上がり続けるのだろうか?
答えは否である。ゴールドが永遠に上がり続けるわけではない。ドルが永遠に下がり続けるのである。結果として、ドルで計った金価格は上昇することになる。
フォン・グライアーツ氏は以前の記事で次のように言っていた。
ゴールドの価値が上がるわけではない。単にその購買力を維持するだけだ。だから価値のなくなる通貨で価値を計算すれば、金価格が上がっているように見える。
ドルバブルの崩壊
何故ドルはバブルなのか。それは1945年以来、世界中の中央銀行や企業や資産家がドルで資金を蓄え続けてきたからである。
ヘイコック氏が中央銀行のポートフォリオについて次のように言っていたことを思い出したい。
1980年には、世界の中央銀行のバランスシートの74%はゴールドだった。74%だ。
しかし今では20%だ。これは大幅な下落だ。
それは厳密にはゴールドが縮小したというよりは、ドルがその代わりになったのである。
だがそれ以前までは、世界経済はゴールドを中心に回ってきた。アメリカの債務問題を契機としてこのドルのバブルが終わるのであれば、第2次世界大戦以降のゴールドからドルへのトレンドは、長期的に巻き戻されてゆくことになる。
フォン・グライアーツ氏は世界全体の金融資産について次のように言う。
今、ゴールドは世界中の金融資産の0.5%に過ぎないが、これから投資家の資産の5%か、恐らく10%ほどはゴールドになる。
確かな数字などないが、10%まで買われる場合、金価格は大幅に上がらなければならない。
ゴールドは人々のポートフォリオの中で主要なものに復帰する。それはもう75年間起きていなかったことだ。だから金価格は大幅に変化しなければならない。
まだ上がっていないシルバー
また、フォン・グライアーツ氏は銀価格について次のように述べている。
短期的には、シルバーはゴールドよりも急上昇することになる。ゴールドより2倍か3倍は速く上がるはずだ。
シルバーはゴールドほどは上がっていない。銀価格は次のように推移している。

シルバーがゴールドに比べて出遅れている理由は、シルバーは中央銀行の準備通貨に採用されていないからである。
だが1980年代の物価高騰時代には、シルバーはゴールドと同じように20倍以上に上昇した。
また、歴史的に見ても、銀本位制は金本位制よりもメジャーな通貨制度だった。シルバーは十分にドルの代わりになるのである。このままゴールドが上がり続けるのであれば、長期的にシルバーだけ置いていかれ続ける状況は考えがたい。
結論
人々は「シルバーは上がっていない」という理由でシルバーを敬遠するかもしれない。だが恐らく同じ人々が「ゴールドが上がる前に買っておけば良かった」と思っているはずである。
上がっていないことは買わない理由にはならない。長期的にどうなると予想するかである。
フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。
シルバーはゴールドより値動きが激しく、価値の貯蔵手段としての程度はゴールドと同じではないが、シルバーは短期的に資産を守れ、なおかつリスクの高い投資にもなりうる資産だ。今が好機だと言える。
いずれにしても、長期トレンドは基軸通貨ドルの長期的衰退である。
世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、アメリカとドルの覇権終了をテーマに著書『世界秩序の変化に対処するための原則』を書いている。これからの相場を理解するために必読の本である。

世界秩序の変化に対処するための原則