ジム・ロジャーズ氏: Amazon株はバブルではない

ジョージ・ソロス氏とクォンタムファンドを創設した著名投資家のジム・ロジャーズ氏がFox Businessによるインタビュー(原文英語)で自身の相場観を披露している。

基本的にはロシア株やロシア国債の買いなど、これまでにここでも伝えてきた彼の相場観に関することばかりだが、一つ興味深い発言があったので紹介したい。それは「Amazon株はまだバブルではない」である。

米国株はバブルか?

米国株は2016年のアメリカ大統領選挙以来、トランプ政権の法人減税を期待して上昇を続けている。

しかし、わたしもそうだが、ロジャーズ氏も米国株を買ってはいない。他のヘッジファンドマネージャーも、今の水準から全力で買いに行く向きは少ないだろう。レイ・ダリオ氏なども米国株よりは新興国株に目を向けているようである。

それでもロジャーズ氏から米国株へのコメントを引き出そうとした番組の司会は、米国株が割安ではないと言うロジャーズ氏に対し、「では大きな売りがあって株価が下がったら買いを考えるか」と質問した。ロジャーズ氏は「もしそうなりでもした場合には、勿論買いを考える」と答えた。

司会者が「その言い方からすると、米国株が下落するとはあまり思っていないのか」と更に質問すると、ロジャーズ氏はこう答えている。

思っていない。米国株には大量の資金が流入しており、米国株はまだ持続不可能なほどに過大評価されているわけではない。Amazonなどの銘柄でバブルの初期の兆候はあるが、しかしまだバブルではない。

わたしもこれに同意する。米国株全体については、トランプ政権の法人減税は共和党好みの政策であり、実現が遅れたとしても何らかの形では必ず実現されるだろう。だから長期金利が下落し、経済成長やインフレへの期待が剥落するなかで株価が上がり続けるのも道理である。

Amazon株はバブルではないのか?

さて、一方でここで注目したいのがAmazon.com (NASDAQ:AMZN)への言及である。P/E(株価収益率)が189にも及ぶこの銘柄には、この数字だけを見た素人の投資家からバブルだとの声が上がっている。

確かにAmazon.comは現在において利益が出ていない。最新の四半期における売上と利益と利益率をセグメント別に眺めると、次のようになっている。単位は百万ドルである。

北アメリカ

  • 売上: $20,992
  • 利益: $596
  • 利益率: 2.8%

海外

  • 売上: $11,061
  • 利益: -$481
  • 利益率: -4.3%

AWS(Amazonのクラウドサービス)

  • 売上: $3,661
  • 利益: $890
  • 利益率: 24.3%

合計

  • 売上: $35,714
  • 利益: $724
  • 利益率: 2.0%

クラウドサービスのAWSを別として、この利益率は確かにあまりに低い。

Amazonの株価バリュエーション

しかしながら、株価はP/Eや利益率だけで決まるものではない。何より重要なのは、これらの数字が将来どうなるかである。

先ず、Amazon.comは創業者のジェフ・ベゾス氏の方針により、儲けた利益を株主に還元するよりは将来のための投資に使うと宣言しており、利益率が低い一因はそこにある。本業の北アメリカでのビジネスも元々は赤字でやっていたのであり、利益を出し始めたのは最近のことである。

ではAmazonの利益は今後どうなってゆくのか? 次はセグメント別の売上高の伸びを見てみよう。

  • 北米: 24%
  • 海外: 16%
  • AWS: 43%
  • 合計: 23%

AWSの伸びは驚異的である。本業の北アメリカもかなりの伸びを維持している。今後、ネット通販は人口動態の変化によって長期的にますます市場を独占してゆくだろう。ネット利用者は若者の方が多いからである。

さて、では将来的に海外事業の赤字が北米の時のようにいずれ解消され、北米の伸び率が今後5年で平均15%、AWSの伸び率が平均30%に維持されると仮定(これは保守的な想定だと考えている)しよう。そうなれば、Amazonの利益は次のようになる。

  • $590 * 115%^5 (北米) + $0 (海外) + $890 * 130%^5 (AWS) = $4,503

これは四半期の数字なので、これを年間の一株当たりに換算すると$36.8になる。現在のAmazonの株価は$1,010.27だから、株価が上下しなければP/Eは5年後に189から27.44まで下がることになるということである。

結論

Amazonより何年も前に創業されたMicrosoftのP/Eが30を超えている現状を考えれば、5年後のAmazonのP/Eが27.44という状況は、割安ではないが、他のハイテク株に比べて割高という状況でもないことが分かってもらえるのではないか。ロジャーズ氏の言う通りである。

バリュエーションで言えば、米国株は過度に割高でも過度に割安でもなく、したがって買いも空売りも出来ないということになる。では米国市場では投資家は何も出来ないのか? そうではない。こういう状況でどのような投資が可能かということについては、以下の記事に書いたので参考になればよいと思う。

また、ロジャーズ氏が米国株の代わりに何に投資しているのかということについては、過去の記事を参考にしてもらいたい。