フォン・グライアーツ氏: 株価と国債と不動産は暴落してゴールドだけが価値を保つ

Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社配信動画で、トランプ政権の関税政策と株式市場の下落について語っている。

株価が下落した理由

2025年4月、米国株は急落した。日経平均も連れ立って大幅下落している。アメリカの株価指数であるS&P 500のチャートは次のようになっている。

大手メディアのニュースではトランプ大統領の関税が原因だということが言われている。しかし筆者はもっと根深い問題が本質的原因だと指摘してきた。

そしてフォン・グライアーツ氏も同じ見方のようである。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

世界中の人々がトランプ氏と関税を責めている。

関税は市場が下落している理由ではない。それはきっかけに過ぎない。上がりすぎた市場が崩壊するにはいつもきっかけが必要だ。

それがたまたま関税だったが、そうでなければ銀行の破綻か、何か別の政治的なニュースだったかもしれない。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏も同じことを言っていた。大手メディアでは少数派の意見が、資産運用業界では当たり前の見方なのである。

ドルと米国債からの資産逃避

本当の原因が何かということについても、筆者とダリオ氏とフォン・グライアーツ氏は一致している。ドル資産、特に米国債からの資金逃避である。

アメリカの財政問題については、株価が下がる前から多くのヘッジファンドマネージャーが警鐘を鳴らしてきた。

アメリカではコロナ後の金利上昇により莫大な政府債務に多額の利払いが発生しており、米国政府は米国債の利払いを新たな米国債の発行により賄う自転車操業を続けている。

新規の米国債の発行過多は、国債の買い手不足の問題を引き起こす。だから多くのヘッジファンドマネージャーらはいつか国債価格が下落し、金利が上昇するのではないかと危惧していたのである。

次に景気後退が問題となれば米国債が売られるのではないかと予想していたのは債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏である。

景気後退が懸念され、株価が下落すると、普通ならば安全資産とされる米国債は買われる。2008年のリーマンショックにおいても株価と金価格が暴落する中で米国債だけは買われた。

だがガンドラック氏は、今回は景気後退が懸念され、一時的に米国債への資金逃避が起こったとしても、長期的には景気対策のばら撒き懸念で米国債は売られることになるだろうと事前に予想していた。

だが今回、米国債への資金逃避がどれだけ「一時的」だったかについては驚くべきものがある。

フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

株式市場が急落したとき、短期的には国債への資金逃避が起きるかもしれないと思った。上がるとしても短期だけだが。長期的には国債は売られ、金利は上昇する。

しかし実際には国債への資金逃避は2日で終わった。

株安が始まって比較的すぐに米国債は売られ、金利の上昇が始まった。アメリカの長期金利は次のように推移している。

株価が下がり、米国債が売られ、その代わりに何が上昇したのか。ゴールドである。

金価格のチャートは次のように推移している。

金価格の上昇

米国債の下落を予想したガンドラック氏と同様に、去年からこの相場を的確に予想していたのがフォン・グライアーツ氏である。

フォン・グライアーツ氏は金価格がまだ2,200ドルだった去年の半ばから、ドル資産からゴールドへの資金逃避を予想し続けた。そして今や金価格は3,200ドルである。

アメリカの負債が多すぎるのである。そしてその負債は、金利がゼロだった頃には負債をどれだけ積み上げても利払いはゼロだったが、インフレになり金利が上がり始めると途端に多額の利払いが生じるようになる。

それは米国債の大量発行に繋がり、金融市場は買い手不足による米国債の暴落を心配し始める。

米国債やドル紙幣の将来が危うくなるとき、代わりに買われるものは何か? ゴールドである。

フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

こうなることは分かっていた。それが不可避であることは歴史が教えてくれた。通貨のサイクルの終わりには通貨が下落し、それがゴールドの名目価格を上昇させることになる。

通貨のサイクルの終わりとは、つまりはドルと米国債の信用がいよいよ疑われ、1945年から世界の基軸通貨であり続けたドルおよびドル建て資産の下落トレンドが始まるということである。

資産逃避は始まったばかり

フォン・グライアーツ氏は、ドル建て資産からゴールドへの長い資産逃避の始まりに過ぎないと予想している。

フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

債権、株式、不動産などバブルになっているすべての資産は下落する。

これらすべてが終わったとき、債券市場、株式市場、不動産市場などのすべての金融市場がどうなるかを考えれば、トランプ氏は史上最悪の大統領として名前を残すことになるだろう。サイクルの終わりに大統領となる人物は誰でも苦しむことになる。

そしてフォン・グライアーツ氏はゴールドなど貴金属の一人勝ちを予想している。いや厳密には、他のすべてが下がり、貴金属だけがノアの方舟のように世界的な大洪水から投資家を守るのである。

フォン・グライアーツ氏は次のように続けている。

ゴールドの価値が上がるわけではない。単にその購買力を維持するだけだ。だから価値のなくなる通貨で価値を計算すれば、金価格が上がっているように見える。

これは史上最大の資金の移動になるだろう。これは世界的な現象であり、多くの人が大金を失うことになる。

なぜドルから資金が逃避しているのか。

より詳しく知りたい人は、以下の記事や、ダリオ氏がドルの覇権が終わる理由を解説した著書『世界秩序の変化に対処するための原則』を参考にしてもらいたい。関税の話をしている場合ではないのである。


世界秩序の変化に対処するための原則