DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がThe Insightful Investorのインタビューで、S&P 500や日経平均などの株式のインデックスファンドに投資をすることの危険性について語っている。
インデックスへの長期投資
金融庁がNISAなるものを推し始めて以来、S&P 500や日経平均などの株価指数に投資をすることが流行りである。
宣伝文句はこうだ。投資や経済について何の知識もない人でも、インデックスに長期投資すれば安定した長期リターンが得られる。
だがそれを聞いた金融の専門家はこう思ったはずである。「それが本当なら、何故金融業界の人間はインデックスファンドを買って寝るのではなく、毎日出社して金融ニュースを確認しなければならないのか?」
何も考えずに預金以上の安定したリターンが得られる。そんなものが本当にあれば、金融業界の人間は誰も働かないはずである。
インデックスファンドのサイクル
ガンドラック氏は次のように始めている。
インデックスファンドの人気は危険だ。
何故危険なのか。その理由についてガンドラック氏は次のように説明している。
理由はこうだ。インデックスが上がる。より多くの資金が集まる。インデックスが更に上がる。それが続く。
優れた投資家であればそれが危険であることにすぐ気付くだろうが、多くの人はむしろそれは良いことであるかのように聞こえるだろう。
それの何が問題なのか? ガンドラック氏は次のように続けている。
インデックスファンドは、新たな顧客が資金を投入すれば市場で株式を買う。その買い自体が株価を上げる。そうすればその顧客は更にお金を入れる。
上げ相場をもたらす循環だ。だがその裏には売りが売りを呼ぶ循環がある。
インデックスが上がったからインデックスを買う、その買いが更に別の資金を引き寄せる。
だがこの論理は、すべての金融バブルと同様に、新規参入してくる人が永遠に増え続けることを前提としている。
しかし実際には人間の数は有限である。いつか長期的な資金流入が止まる日が来る。
インデックスそのもののバブル
今回ガンドラック氏が問題にしているのは、株式のバブルではなく、インデックス投資そのもののバブルである。
株式のインデックス投資は、株式投資とインデックス投資の両方の側面を持つ。そしてその2つはそれぞれ分けて考えられるべきだ。それが今回の論点である。
株式投資とインデックス投資は別のものだ。例えば日経平均は、日本の株式市場に存在している数千の銘柄のうち、たった225社しか含んでおらず、しかも配分の偏りによってファーストリテイリングなど一部の銘柄に大きく左右されることは、投資家ならば誰でも知っている事実である。
S&P 500も米国株数千銘柄の中のせいぜい500銘柄であり、しかもAppleやAlphabetなど一部の銘柄に大きく影響される。
そして株式のバブルとインデックスのバブルは、時期が被ることが多いがそれぞれ別物である。インデックスのバブルとは、株価指数に含まれる一部の銘柄に資金が集中することであり、S&P 500や日経平均に含まれる銘柄だけが大きく上がり続ける状況を指している。
それはインデックスそのものの問題であり、株式市場全体のバブルとは別物である。
インデックスバブルの崩壊
このインデックスバブルは、「インデックスが上がっている」ことを理由に上がってゆく。自分の足を自分で支えて宙に浮くようなものである。
しかし状況をよく考えてほしい。今インデックスを買い支えているのは、インデックスが上がってきたことを理由にインデックスを買ってきた人々である。
ではインデックスが下がり始めたとき、それが上がってきたことを理由に買っていた人々はどうするだろうか?
ガンドラック氏は次のように言っている。
重要なのは、上がれば上がるほど人々がインデックスを買おうとするということだ。
しかし突然、株価が下がり始め、人々が売り始める。そうなれば誰も買う人はいない。
結論
インデックスが上がっていたことを理由に買っていた人々は、インデックスが下がり始めると投げ売りを始めるだろう。買っていた唯一の理由が崩れるのだから当たり前である。
インデックスファンドを買っている人の多くは、そもそもこれまで下げ相場をほとんど経験したことがないので、こういう問題に下げ相場になって初めて気が付き始める。
だからガンドラック氏は次のように言っている。
インデックスファンドはこうした状況に弱い。
ちなみにガンドラック氏が上記のように説明した、買いが買いを呼ぶ好循環が売りが売りを呼ぶ悪循環に変わるバブル崩壊のメカニズムは、金融業界では世界的なヘッジファンドマネージャーであるジョージ・ソロス氏の再帰理論として知られている。
ソロス氏は自分の投資理論を解説した著書『ソロスの錬金術』において、このバブルの仕組みを詳しく解説している。未読の人は読んでおくべきである。
また、ガンドラック氏はインデックス投資のバブルを指摘した上で、それとはまた別の米国株そのものの長期バブル崩壊についても語っている。
投資家はそれほど多くの資金をインデックスに注ぎ込むことの危険性をほとんど理解していない。
その中でも最悪なのは米国のインデックスファンドだ。アメリカの対外純資産を見れば理由が分かる。
株式のインデックス投資が長期的に安定した利益をもたらすというのは、二重の意味で疑問符が付く。
米国株とアメリカの対外純資産の話については以下の記事で詳しく述べられているので、そちらも参考にしてもらいたい。

ソロスの錬金術