米国株: GoogleとMicrosoftの奇妙な株価バリュエーション

久々に米国株個別銘柄でも扱ってみよう。

トランプ相場が後退し、当初買われていた銀行株やインフラ関連株などの株価上昇が行き詰まる中、トランプ銘柄ではなかったハイテク株が出遅れ銘柄として買われている。かつてジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを指揮したドラッケンミラー氏もこの流れに乗っていることは報じた通りである。

ハイテク株全体が買いかどうかの議論には個人的には関わらないつもりである。私見では成長株と呼べるほどの将来性があるのはAmazon.com (NASDAQ:AMZN)くらいであり、他の銘柄に魅力は感じていないが、今回の記事で話したいのは個々の銘柄の魅力ではなく、相対的な株価評価のことである。

AlphabetとMicrosoft

Googleの親会社Alphabet (NASDAQ:GOOGL)とMicrosoft (NASDAQ:MSFT)のP/E(株価収益率)は現在ともに30前後となっている。厳密にはAlphabetは32.02、Microsoftは30.85である。これは、大雑把に言えば二つの会社の将来性がほぼ同程度だと見積もられていることになる。

より具体的に説明すれば、先ずAlphabetの株価と一株当たり純利益(EPS)は以下のようになる。

  • 株価: $993.27 EPS: $31.02 P/E: 32.02

Microsoftは以下である。

  • 株価: $69.96 EPS: $2.27 P/E: 30.85

P/Eとは株価をEPSで割ったものであり、その会社が投資家にとっての投資額(株価)を稼ぐために現在の利益水準では何年掛かるかを示したものである。当然、低いほうが割安ということになる。

将来性の違いは織り込まれているか?

問題は、AlphabetとMicrosoftでは利益の成長率が違うということである。Alphabetの純利益はは最新の四半期で前年同期から20%近い成長をしている一方、Microsoftは10%程度の成長である。今後を推算したアナリスト予想を見ても、この成長率は2018年にかけてAlphabetが18.95%、Microsoftが9.35%で推移するとされており、中期的にも継続する見通しとされていることが分かる。

Alphabet(Google)とMicrosoftの成長率の違いについては、厳密な数字は別にしてもそれぐらいの差があるというのは正しいだろう。

Alphabetの売上のほとんどはウェブ広告の仲介から上がっており(Googleの本業は検索ではない)、デスクトップ上の広告に比べモバイルの広告は不利という点はあるにしても、ウェブ広告は全体としてはテレビ業界の衰退に合わせて今後も成長してゆく分野である。テレビ業界の衰退は高齢化で鈍化する先進国経済の成長率に似ている。高齢者と若者ではテレビの視聴時間が著しく異なり、これは非可逆の変化だろう。

一方で、Microsoftの売上の大半はOffice製品とサーバ関連、そしてOSであり、どれも長期的な成長が見込めるものとは言い難い。個人のユーザがWindowsよりもiOSやAndroidにシフトする中、基本的にMicrosoftの製品はビジネス習慣におけるデファクトスタンダードであるという点に頼っており、特にビジネスの現場では、Microsoft製品が優れているからという理由ではなく、皆がWordを使うからWordを使わなければならない、という理由で採用されている。金融業界におけるBloomberg端末のようなものだろう。

IBMが未だに程々の規模の大企業であるように、技術革新が出来なくなった企業も直ちに死ぬわけではない。しかしGoogleのような成長分野を独占している企業と同じ評価というのは、少し過大なのではないか。

将来の株価収益率を計算する

それは将来の株価収益率を計算すれば明らかになる。仮に、Alphabetの利益率が18.95%、Microsoftの利益率が9.35%という状況が5年続くと仮定すればどうなるか? 先ず一株当たり純利益(EPS)は以下のように変化する。

  • Alphabet: $31.02 -> $73.87
  • Microsoft: $2.27 -> $3.55

結果、仮に株価が今と同じだとすると、株価収益率(P/E)は次のようになる。

  • Alphabet: 32.02 -> 13.45
  • Microsoft: 30.85 -> 19.71

Alphabetの方はなかなかに割安株ということになる。これは米国市場では銀行株の評価基準である。一方で、Microsoftの方はまだまだ成長株として評価されている水準ではないか。しかし5年後にMicrosoftが成長株でいられるだろうか? 個人的には非常に懐疑的である。

結論

この議論では、ハイテク業界全体がどのようなマクロ経済の波に飲まれるかという話はしていない。しかしこの二社の相対的な評価基準が妥当ではないと感じる投資家は、片方の株を買ってもう片方を空売りすることで、全体の相場観にかかわらず、その相対的な相場観に賭けることが出来る。ハイテク業界全体、あるいは米国株全体が上がったり下がったりした場合にも、同じ業種の買いと売りを同時に行なっているために、影響を受けにくい。いわゆるロングショート戦略である。

しかし、やはり個人的な興味は米国の株式市場よりも、原油やロシアに行っている。原油は予想通りに推移しており、ロシア株は、1月の記事でここまで下落すれば魅力的と書いた水準まで下がりつつある。

ロシア株も魅力的なのだが、長期国債利回りが8%の段階で株式の利回り10%はやや買われすぎの感もある。ロシア株はアメリカ大統領選挙後に上昇しているので、MICEXが1800-1900程度まで下落して価格に対する利回りが上昇するのを待つか、あるいはまだ買われていない個別株を選別して買っていくのが良いだろう。

ロシアの株価指数MICEXは現在、1月の2200前後の水準から1940まで落ちてきている。

ただ、この記事ではトランプ相場の減退で米国株の方向性が定まらずとも、米国市場でもやれることはあるということを示したかったのである。今後も様々な市場について記事を書いてゆく。