ベッセント氏: トランプ政権の政策で金利は下がり続ける

アメリカの財務長官でSoros Fund Managementを運用していたヘッジファンドマネージャーでもあるスコット・ベッセント氏が、ドナルド・トランプ大統領との会合でアメリカの金利見通しについて語っている。

トランプ政権の政策

トランプ政権の政策が話題である。1つは関税であり、もう1つは公務員の解雇である。

関税については、これまでの記事で何度か触れた。

では、トランプ政権が多くの公務員を解雇している件についてはどうか。それは今年に入ってヘッジファンドマネージャーたちがこぞって話しているアメリカの財政赤字の問題と関係がある。

コロナ後の政府債務の増加と金利上昇によって、米国債には多額の利払いが生じており、米国政府はその利払いを新たな国債発行によって賄っている。

金利がゼロだった頃はいくら借金を増やしても問題ないかのように見えていたのだが、金利が上がると途端に自転車操業に突入する。

それがインフレ政策、金融緩和の結末である。レイ・ダリオ氏は、コロナ直後に発表した『世界秩序の変化に対処するための原則』においてそれを予想していた。

公務員の解雇

多くの著名投資家の予想によれば、このまま国債発行が増えると債券市場で国債の価格が下落することは避けられない。

ヘッジファンド業界の有名人であり、金融市場のエキスパートであるベッセント氏を有するトランプ政権はそれを理解しており、政府の支出を減らそうとしているのである。

その一環が公務員の解雇である。ベッセント氏は次のように述べている。

トランプ政権はアメリカ経済を民営化している。政府支出を減少させ、政府機関における過剰な雇用を減らしている。

一方で銀行システムを規制緩和し、政府から解雇された人は製造業で新たな仕事を得ることになる。

公務員を解雇すれば二重の意味でインフレ率は低下する。まず、給与を失った公務員は消費ができなくなり、経済の中の需要が減少する。

更に、仮にその公務員が民間の会社で雇われることになったとしても、政府に雇われている状況よりもインフレ減少的である。何故ならば、民間企業はその労働力を人々の欲しがるものを作るために使うが、政府はその労働力を使う時に国民が欲しがるものが生産されるかどうかを考えないからである。

結果として、その人が同じ給与を手に入れ、同じ量を消費するとしても、その人が経済に供給する量が民間企業にいる場合の方が増えるので、インフレ減少に貢献するのである。

だからベッセント氏は次のように言っている。

民営化が進めばインフレが低下する。インフレは制御されつつある。ものが手に入らない状況を是正する。

これはアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領がハイパーインフレを打倒したやり方である。

トランプ政権の反インフレ政策

更に、ベッセント氏は原油の産出量を増やすトランプ政権の政策などに言及して、次のように言っている。

より安いエネルギー価格、規制緩和、民間の雇用増加が当然に金利を低下させる。

1月20日以来、ほとんどの週で住宅ローン金利は下落しており、エネルギーコスト、原油価格は15%下がっている。

原油価格は、主に株安による景気減速懸念が原因だと思われるが、次のように下落している。

ベッセント氏は次のように続けている。

この動きを続けていけば金利は下がり続けるだろう。それは住宅ローン金利にもプラスであり、クレジットカードの借金にも自動車ローンにもプラスだ。

結論

現在の金利低下は主に株安と景気後退懸念によるもので、トランプ政権が何かしたというよりは、何もしていないことによるものだが、重要なのは彼らが金利を気にしているということである。

この会合に同席しているトランプ大統領も次のように言っている。

わたし個人の意見だが、Fed(連邦準備制度)は金利を下げれば良いと思う。インフレも下がってきているし、関税によって多くの資金も入ってくるのだから。

Soros Fund Managementにおけるベッセント氏の後任者であるドーン・フィッツパトリック氏は、ベッセント氏について次のように言っていた。

スコットの発言は文字通りに受け取るべきだ。彼とトランプ大統領は10年物国債の金利を重要視すると言った。だからむしろ市場が過熱し過ぎないように気を遣っているはずだ。

そしてベッセント氏もトランプ氏も、現在の株安については、聞かれなければほとんど口にさえしていない。

だから重要なのは、今回のトランプ政権は株価ではなく金利とインフレ率を気にしているということだ。何故かと言えば、去年の選挙で民主党政権が負けたのはインフレのせいだからだ。

トランプ大統領は、インフレの期間において選挙で重要なのは株価よりもインフレ率だということを理解している。だから政府支出の削減がインフレ率と株価を両方下げるとしても、それで良いと考えているのだろう。

景気後退が来ない間は、トランプ政権はそうした贅沢が出来る。だがダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』に書いているように、歴史上多くの政府は、景気後退時にはインフレを気にせず支出を増やし、インフレをもたらした。

トランプ政権がインフレに対して本気かどうかが問われるのは、景気後退になってからである。その時彼らはどう振る舞うだろうか。


世界秩序の変化に対処するための原則