サマーズ氏: 米国株の下落は当然

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、BloombergのインタビューでFed(連邦準備制度)のFOMC会合とトランプ政権の経済政策、そして株式市場の下落について語っている。

トランプ政権の関税政策

トランプ政権の関税政策が話題となっている。米国株が下落しており、大手メディアではその原因は関税だと言われている。

Fedは最近FOMC会合を開いたが、その後の記者会見でパウエル議長が言った興味深いことの1つは、関税の影響は一時的かもしれないと言ったことである。

この「一時的」は、金融関係者には趣の深い言葉である。何故ならば、これはパウエル議長が2021年に既に始まっていたインフレに対して言った言葉だからである。

その後、2022年までインフレ率は上昇を続けたことは、今では誰もが知っている。

このことはパウエル氏自身もトラウマになっており、それを分かった上でパウエル氏が関税の影響を「一時的」と言ったことは興味深い。

だが、サマーズ氏は次のようにコメントしている。

「一時的」は、パウエル議長の7年半の素晴らしい職務期間の中でもっとも悪名高く、間違った言葉だ。パウエル氏はもうその言葉の使用を止めたと思っていたのだが。彼がそれを復活させたのには驚いた。

一方で、サマーズ氏はFedが市場で言われているほどハト派ではなかったとも指摘している。

サマーズ氏はFOMC会合の参加者がそれぞれの今後の金利予想をプロットしたドットプロットについて次のように述べている。

多くの人が見逃しているのは、ドットプロットの金利の中央値は多くの人が指摘しているように変わらなかったかもしれないが、平均値は大きく上方修正された。

ドットプロットは参加者のプロットの中央値(順番に並べた場合の真ん中の人の数値)を見るということが金融市場では慣例となっているが、確かにサマーズ氏の言う通り、プロットの中央値は変わらなかったものの、全体的に見れば金利見通しは上方向にシフトしていた。

関税と株式市場

関税によって経済成長は下がり、関税の価格への転嫁によってインフレ率は上がるということが言われている。

サマーズ氏も次のように述べている。

関税とそれがもたらすことになるインフレによって、経済が減速フェイズに入ることが予想されているにもかかわらず、Fedが利下げできるという自信が損なわれている。

これは12月に思われていたよりも憂慮すべき状況であり、当時からの主な変化は何かと言えば、関税とトランプ政権の政策だけだ。

それで株式市場も下がっている。S&P 500のチャートは次のように推移している。

サマーズ氏はこの状況を当然だと見ているようだ。サマーズ氏は株式市場の気持ちを代弁するように次のように言っている。

政権が初めは自信を持って株価の上昇を約束しながら、過去100年で11番目に急速な株価の下落をもたらし、そして後出しで経済にはガス抜きが必要だなどと言い出して、不確実な状況がいつ終わるのかも示していない。

トランプ政権からはスコット・ベッセント財務長官が次のように言っていたが、確かに株価が下落してから出すコメントとしては苦しい。

わたしは投資の世界に35年いるが、株式市場の調整は健全で普通なことだ。一直線に上がり続ける方が不健全だ。

だが筆者はパウエル議長の「一時的」の考えに同調したい。そもそも関税の話は前から分かっていたことであり、しかも前回のトランプ政権の時にもトランプ大統領は関税を多用していた。

だがそれは2016年からのトランプ相場の邪魔にはならなかった。では何故それが今回は問題となっているかと言えば、トランプ政権から出てくるニュースが関税と公務員の解雇しかないからである。

前トランプ政権には法人減税など株式市場が好むニュースがあった。だからGDPにほとんど影響を及ぼさなかった関税政策のことなど誰も気にしなかった。

だが今回は良いニュースの方が流れてこない。それはトランプ政権がインフレをもたらすような政府支出を今のところ行なっていないということではあるのだが、株式市場にとってはネガティブとなる。

だが問題の本質は関税ではなく(それはもう前トランプ政権で試した)、良いニュースの欠如であることは認識しておかなければならないだろう。それが今後どうなるかである。