ベッセント財務長官: 株式市場の下落は心配していない

アメリカの財務長官であり、ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementを運用していたヘッジファンドマネージャーでもあるスコット・ベッセント氏が、最近の米国株の下落にコメントしている。

スコット・ベッセント財務長官

トランプ政権が始まって以来、一時的には上がっていた株価も最近では急落している。S&P 500のチャートは次のようになっている。

この状況に対してトランプ政権がどう思っているのかは投資家の興味を引くところだが、特に気になるのは世界有数のファンドマネージャーであり、トランプ大統領によって財務長官に指名されたベッセント氏がこの状況をどう見ているかである。

これまでの世界では、政治家は金融市場について何も分からないというのが普通だった。だがベッセント氏はヘッジファンド業界で誰もが知る人物であり、現在Soros Fund ManagementのCEOであるドーン・フィッツパトリック氏は次のように言っていた。

スコットは非常に賢い人だ。彼は優秀で、歴代の財務長官の中でももっとも市場に精通した人物だろう。

歴代の財務長官でもっとも経済に精通した人物ならば、経済学者のラリー・サマーズ氏の名前も出てくるだろうが、マーケットに関しては実務家のベッセント氏が上を行くと言わざるを得ないだろう。

ベッセント氏の相場観

そのベッセント氏は、最近の株価下落に対してどのように言っているか。彼は次のように話している。

わたしは投資の世界に35年いるが、株式市場の調整は健全で普通なことだ。一直線に上がり続ける方が不健全だ。

市場が過熱すれば金融危機が起こる。2006年や2007年に誰かがブレーキをかければ、2008年に問題が起こることもなく健全だっただろう。

だから金融市場に関しては心配していない。良い税制、規制緩和、優れたエネルギー政策を行うことで、長期的には株価は良くなるだろう。

彼の言葉にまったく嘘はない。ヘッジファンドマネージャーはその多くが政府による景気刺激に批判的である。恣意的に株価を上げれば、何処かにその歪みが来ることは避けられないと誰よりもよく知っているからである。

2008年はリーマンショックの年である。何故リーマンショックが起こったのかと言われれば、住宅バブルが崩壊したからである。だが住宅バブルが崩壊した根本的な原因は、バブルが存在した事実そのものである。

当たり前のことだが、バブルがなければバブル崩壊はないし、バブル崩壊を避ける一番の方法は、バブルを作らないことだ。

だからベッセント氏は次のように続けている。

これまでに起こってきたような無責任な政策を行い、6.7%の財政赤字を垂れ流す方がよほど簡単だ。

戦時でも景気後退時でもないのにこんな財政赤字になったことはこれまでない。トランプ政権はこの赤字を責任あるやり方で下げようとしている。

財政赤字は、実はほぼそのままGDPを押し上げる。政府の支出や投資はGDPの要素なので、政府が赤字を出して支出すれば、その支出がどれだけ無駄であったとしても、全額GDPを押し上げるのである。

だがその財政赤字こそがコロナ禍において世界的な物価高騰を生み出した。

筆者が思い出すのは、20世紀最大の経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏が『貨幣論集』で次のように言っていたことである。

将来の失業について責められる政治家は、インフレーションを誘導した人びとではなくそれを止めようとしている人びとである。

ベッセント氏は内心では「ではバイデン氏のように現金給付でインフレを引き起こせば良いのか」と言いたかっただろう。そうすれば株価は上がり、そしてインフレになるだろう。

人々は結局どちらになっても文句を言うのではないか。だが投資家にとっては、ベッセント氏が株価を持ち上げる気はないという点は重要だろう。

フィッツパトリック氏はベッセント氏は株式市場よりも国債市場の方を気にしていると分析していた。彼女の分析はベッセント氏本人の慎重な発言よりも詳細なものになっているので、そちらも参考にしてもらいたい。


貨幣論集