引き続き、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の自社配信動画である。
今回は米国の株式市場の長期的な見通しについて述べた部分を紹介したい。
米国株の上昇と金利の低下
いまだに多くの人々が、米国株は永遠に上がると思っている。しかし1989年に日本でバブルが崩壊するまで、日本人は日本株が永遠に上がると思っていたし、中国人は数年前まで不動産は永遠に上がるものだと思っていた。
だが実際には永遠に上がる資産クラスなど存在しない。事実はと言えば、単に人々は長期上昇相場が終焉を迎えるまで、それが永遠に続くと信じ続けるというだけのことである。
米国株については何が言えるか。ガンドラック氏が以前指摘していたのは、米国株が長期的に上昇し続けるのは金利低下局面に限るという事実である。彼は次のように述べていた。
1980年前半から2020年までの長期金利の13%の低下をもう一度繰り返せないということは、誰でも同意するだろう。
だがそれこそが過去40年米国株が上がり続けた理由である。金利が長期的に低下する限り、米国株は上がり続ける。しかしもう金利は下がっていない。インフレが来たので下げられない。
米国の対外純資産
金利が低下できないことは米国株の長期的なパフォーマンスを支配する要因の1つである。しかし今回、ガンドラックはあるグラフを挙げてもう1つの重要な要素を指摘している。
それはアメリカの対外純資産である。

これはアメリカ人が持つ海外資産から、外国人が持つ米国資産を差し引いた数字である。
ガンドラック氏は次のように述べている。
これが米国の対外純資産だ。これは要するにアメリカに流れ込んだ投資の金額を示している。
ここには外国人のアメリカへの投資が、15年ほど前の3兆ドルから23.6兆ドルに増加したという事実が示されている。
対外純資産が大きなマイナスだということは、ドル建ての資産が外国人によって所有されているということである。
だがそれは同時に、外国人が米国にお金を注いだという意味でもある。だから対外純資産のマイナスは、アメリカへの資金の流入量なのである。
そしてガンドラック氏は、これこそが米国株をこれまで支えてきたもう1つの要素だと主張しているのである。
ガンドラック氏は次のように言っている。
20兆ドルもアメリカに資金が流れ込んだことは、明らかに米国株が他の国の株式市場を上回る原因となっている。
米国への資金流入
だが、ここで問題がある。去年からヘッジファンドマネージャーたちが話題にしているのが、ドル資産からの資金逃避だということである。
一番最近の例では、ガンドラック氏が今年に入り米国株が下がる中で欧州株が上がっていることを指摘していた。
ガンドラック氏が挙げているのはウクライナなどをめぐる国際情勢である。そもそも今欧州株が上がっているのは、トランプ政権がウクライナから手を引くことで、ヨーロッパが自国に投資し、自分で防衛力を強化しなければならなくなったからである。防衛費の増加が株高を演出している。
トランプ政権は、アメリカがこれまでベトナムや朝鮮半島やリビアやシリアに介入してきたような、そういう政治を止めようとしている。それは悪いことではないのだが、それは各国が自立し、自国に投資するということを意味する。
だから現在、米国株が下がっていて欧州株が上がっている状況は、まさに世界から米国に集まっていた資金が、それぞれの国で使われている状況を意味しているのである。アメリカも余裕がなくなったので他国から手を引くが、他国も他国でよそに投資をしている余裕がないのである。
それに加えて、ウクライナ情勢でアメリカが他国のドル資産を簡単に凍結できるということがはっきりした今、BRICS諸国や中東諸国はドル資産の保有を避けている。ジョニー・ヘイコック氏が次のように言っていた。
アメリカはその気になれば誰の金でも盗めるということだ。だから当然東側諸国の中央銀行はドル建ての資産をゴールドに置き換えている。
結論
アメリカへの資金流入は、一方通行のトレンドではない。いずれ限界に達し、対外純資産は上昇を開始する。
それはやはり結局、レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明している覇権国家の寿命と関係している。覇権国家の寿命が近づいたとき、対外純資産はマイナス幅を縮小し始める。
そしてトランプ政権やBRICS諸国などの動きは、徐々に事態が遂にその方向に動き始めていることを示している。
だがその資金流入は、金利低下と並ぶ米国株の長期上昇相場の理由だったのである。ガンドラック氏は次のように述べている。
そうした状況は、ほとんど確実にこの資金の流れが逆流することを意味している。
金利低下も対外純資産のマイナスも永遠ではない。それでも米国株が永遠に上がり続けると言う人は、米国株が両足を失っても宙に浮くとでも言うのだろうか。
転換点が近い。投資家は自分の長期投資の根拠を再確認すべきである。特に20年や30年で米国株を考えている人は、確実にこれに巻き込まれるだろう。

世界秩序の変化に対処するための原則