アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、CNNのインタビューで最近の米国株の下落とトランプ政権の政策にコメントしている。
米国株の下落とトランプ政権
米国株は下がっている。アメリカのメディアでは、トランプ政権の関税が経済に不確実性をもたらしていると騒がれている。
S&P 500は次のように推移している。

原因は関税なのか。サマーズ氏は現状を次のように分析している。
これは運転手が荒い運転をしている時に後部座席に座っているようなものだ。
物価上昇、投資の減少、諸外国からの対抗措置などがどうなるのかを考慮すれば、次に何が起きるのか心配になって当然だ。
サマーズ氏はいつも比喩が上手い。そして関税の調節的影響というよりは、政策がもたらしている不確実性が問題なのだと主張している。
サマーズ氏はこう続けている。
大統領とその政権が方向を大きく転換しない限り、この混乱はまだまだ序盤だろう。
景気後退の懸念
それは株式市場の投資家にとっては大きなニュースである。だが、単に関税というだけでは株価はそれほど下がらないだろう。
金利が下がっていることから見ても、金融市場は景気後退の確率が上がったと考えているのであり、景気後退になれば株価がどうなるかは、去年一度分析した結果を説明している。
だからもし本当に景気後退になるならば、株価の下落は正しい動きだということになる。
サマーズ氏は景気後退についてどう考えているのか? 彼は次のように述べている。
今年の初め、トランプ氏が大統領に就任する前には、景気後退のリスクは10%から15%程度だと考えていた。今では50%に近づいており、しかもその確率は毎日上がっている。
このまま今の政策のやり方を続けていれば、景気後退に陥る可能性は非常に高くなるだろう。
投資家はそれについてどう考えるかによって、下がっている株価にどう対応するかが決まることになる。
景気後退とゴールド
だが、はっきり言って今の金融市場で一番重要なのは株価ではない。
では一番重要な資産は何か。サマーズ氏は次のように言っている。
ここのところパフォーマンスが良い資産がよりにもよってゴールドだということは、どれだけの不確実性が生まれているかを示している。
筆者も記事の合間に指摘しておいたが、この状況下で金価格が上がっているというのは驚くべきことである。金価格のチャートは次のようになっている。

何故これが驚きかと言えば、景気後退になれば金価格も下がるのが普通だからである。
だが以前書いたように、インフレ相場における金価格は、これまでのデフレ相場とは違い、景気後退から受ける影響が小さい。
景気後退になれば金融緩和が来るが、金融緩和がインフレを悪化させることが事前に分かるからである。1970年代のインフレ相場を参考にしてもらいたい。
結論
去年の末頃から筆者はゴールド推しの記事ばかり書いていたが、そろそろ読者もその理由が分かってきただろうか。金相場が景気後退の影響をまったく受けないとは思っていないが、インフレ相場におけるゴールドの勢いにとってはそれほど重要ではないのである。
サマーズ氏は次のように言っている。
国の通貨を管理している人々に疑念を抱いた時に人々はゴールドを買う。
アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領もビットコインについて同じようなことを言っていた。
ビットコインはリスク資産なので流石に下がっているが、その辺りもゴールドと暗号通貨の使い分けという意味で興味深い点かもしれない。インフレ過熱の局面ではビットコインの方が強いだろう。
レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想していたドルからの逃避は、2025年の金融市場のテーマである。今の金相場の動きはまさにそれを表していると言える。

世界秩序の変化に対処するための原則