世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がCNBCのインタビューで、アメリカの債務危機について語っている。
金利上昇と債務危機
前回の記事では、Soros Fund Managementのドーン・フィッツパトリック氏がヨーロッパの債務危機を警告していた。彼女はイギリスやフランスが国債の大量発行で国債の買い手不足に陥ると予想している。
だが債務危機が近いのはヨーロッパだけではない。むしろアメリカの方が本命である。
アメリカではヨーロッパよりも金利が上がり、米国債には多額の利払いが発生しており、国債を更に発行しなければならないのに、インフレで中央銀行が国債買い入れ出来ない今、米国債の買い手はいるのかということである。
恐らく一般の人の多くは政府債務がGDPの100%を超えようが、それほど気にしていないだろう。だがダリオ氏は次のように言っている。
一部の人は「債務は問題ない、これまでも問題なかったのだから」と考えているが、彼らは債務というものを理解していない。
これまで政府債務がどれだけ増えても問題ないように見えたのは、中央銀行が量的緩和で国債を買っていたからである。
だがひとたびインフレが生じると、中央銀行は容易に量的緩和ができなくなる。インフレを悪化させてしまうからである。
だからダリオ氏は次のように言っている。
アメリカの財政赤字は今想定されているGDPの7.2%から3%程度に減らさなければならない。そうでなければ、米国債の需要と供給に問題が生じる。それは大問題だ。債務の処理はショッキングな状況になるだろう。
債務危機のシナリオ
司会者に「ショッキングな状況」とはどういうものかと聞かれて、ダリオ氏は考えられるシナリオをいくつか挙げている。
司会者は緊縮財政かと尋ねているが、著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で過去に債務増加で破綻した歴史上の大国を研究しているダリオ氏は、大量の債務を抱えた国が緊縮財政を選ぶ可能性が低いことを知っている。
ではアメリカや日本の債務はどうなるのか。ダリオ氏が挙げているシナリオを1つ1つ検証してみよう。まずはこれである。
債務が再編されるかもしれない。
債務の再編とは、借金を減額したり、期限を伸ばしたりすることである。債権者の同意がある限りデフォルトではないが、そういう状況では債権者は同意せざるを得なくなっているのであり、実質的なデフォルトに等しい。
また、ダリオ氏は各国政府が国債をデフォルトさせる先を恣意的に選ぶ可能性にも言及している。彼は次のように述べている。
他国への借金の支払いが政治的な口実で削減されるかもしれない。
例えばトランプ氏はかなり前、中国の持っている米国債を無価値にすると発言したことがあった。それはほとんど冗談のようなものだったが、ダリオ氏はそういう状況になる可能性は十分あると言っている。
しかし、そうした可能性そのものが米国債やドルからの資金逃避を加速させる。
だが、これらのシナリオはもし行われたとしても、部分的なものに留まるだろう。債権者の反発が強く、政府も国債の保有者全員を敵に回すことはできない。
だから政府は別の方法をメインシナリオとして考えるだろう。ダリオ氏は次のように言っている。
他国に国債を買うように政治的圧力をかけるかもしれない。
米国債を持たされている日本のことだろうか。
そして最後が本命である。
負債がマネタイズされるかもしれない。
結局、中央銀行が国債を買うしかない。ダリオ氏はそう予想している。
それがドルと米国債の終わりである。米国株が下落する中、金価格は上がり続けている。

ジョニー・ヘイコック氏が予想した通りである。
そして『世界秩序の変化に対処するための原則』におけるダリオ氏の予想通りではないか。すべてはダリオ氏の歴史研究の通りなのである。

世界秩序の変化に対処するための原則