引き続き、ジョージ・ソロス氏の保有するSoros Fund ManagementのCEOであるドーン・フィッツパトリック氏のBloombergによるインタビューである。
今回は原油相場について語っている部分を紹介したい。
ロシア・ウクライナ戦争
トランプ政権の重要な政策の1つは、ウクライナ情勢に関するものである。トランプ大統領はアメリカが支援し続けてきたウクライナ戦争を終わらせると公約している。
だがフィッツパトリック氏はロシアについて次のように述べている。
投資の世界にとってロシアはそれほど重要ではない。ロシアがウクライナに侵攻した時、金融市場にはあまり影響を与えなかった。
当時は世界的な物価高騰がロシアのせいだなどという完全に間違った主張がマスメディアでは当たり前のものとなっていた。人々が普通に信じているものの中に明らかな誤りがどれだけ多いかである。
だが実際には小麦市場への一時的影響を除き、ウクライナ情勢は世界の金融市場にほとんど影響を与えていない。
それでは、もしウクライナ戦争が終結しても金融市場にはほとんど関係はないのか。しかしフィッツパトリック氏は興味深いシナリオを予想しているようだ。
トランプ大統領と産油国ロシア
フィッツパトリック氏は次のように述べている。
現在の話で言えば、ウクライナ情勢に関して監視する価値のある唯一のものは原油だろう。
何故ここで原油が出てくるかと言えば、物価高騰を引き起こしたアメリカ民主党に勝利して大統領となったトランプ氏は、原油価格の引き下げを公約にしているからである。
だが原油価格は世界の金融市場で決まるものであり、アメリカ大統領といえども自分の意志で引き下げられるのか。
フィッツパトリック氏は次のように続けている。
もしもの話だが、トランプ氏がロシアとウクライナの和平を先導できた場合にどうなるか。
トランプ氏は原油を必要としている。トランプ氏がアメリカの消費者に約束していることは、物価を下げること、特にガソリンの値段を下げることだ。
米国は産油量をもっと増やすことができるが、サウジアラビアは産油量をあまり増やしたくはないだろう。予算を黒字にするためには1バレル90ドルぐらいの原油価格が必要だからだ。
アメリカも今では世界有数の産油国であり、アメリカの産油量を増やすことは不可能ではないだろう。しかしそれだけでは世界の原油価格に大きな影響を与えられないことは、去年の夏の記事で筆者が既に分析しておいた。
この記事では次のように書いている。
アメリカ単体で原油価格を大幅に下落させることはかなり難しいだろう。トランプ氏は明らかにサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王子の助けを必要としている。
しかしフィッツパトリック氏はサウジアラビアとの交渉は難しいと踏んでいるようだ。
そこで出てくるのがロシアなのである。フィッツパトリック氏は次のように述べている。
だからトランプ氏にとって増やせる原油とはロシアだ。
例えばロシアがOPECとの協調から離脱すればサプライズになり、原油価格にとって大きな下落圧力となるだろう。
トランプ氏本人が選挙前に言っていたのは、原油価格を下落させて産油国であるロシアを困窮させ、条件の良い取引を引き出すというものだ。
だが筆者の予想通りそれは困難であり、原油価格の低下は今のところそれほど実現していない。原油価格は最近の株安でやや下がったが、11月の大統領選挙からあまり変化していない水準で推移している。

だからフィッツパトリック氏は、ウクライナ戦争終結後にロシアと取引して産油量を増やし、原油価格を引き下げると予想しているのである。ウクライナ戦争の終結をトレードする方法としてはなかなか面白いのではないか。